
ちゃぷんと水の音がして、頼久はびくりと肩を震わせた。
間違いなく愛しい妻の気配が音のした方から感じられて、頼久の額に汗がにじんだ。
「頼久さん、そこにいます、よね?」
「はい。」
そう答えるのが精一杯だ。
あかねはどうやらほっと安堵のため息をついたようで、揺れていた水面が静かにおさまった。
妻と二人で湯につかってどうしてそんなに焦っているのかと言われれば確かにそうで。
二人で一緒に暮らしているうえに毎晩一緒に眠っているのだから、もちろんあかねの裸体を見たことがない、わけではない。
だが、頼久にとってこんな明るいしかも温泉のなかで色っぽく湯につかるあかねと言うのは目の毒以外の何物でもなかった。
幸いなことに、陽が傾いてくると気温が下がり、湯の温度が高かったせいか激しく上がる湯煙のおかげであかねの姿ははっきりとは見えない。
そのことに頼久は胸の中で感謝しつつ、脳裏に友雅の姿を思い浮かべて顔をしかめた。
どうしてこんなことになっているのかと言えば、そもそもの原因は友雅だった。
せっかく湯治にきたのだからあかねにはゆっくり湯につかってもらおうというのは全員の一致した意見だった。
あかねに安心して湯につかってもらうため、頼久は出入り口付近で警護をすると心に決めていた。
ところが、友雅は言い出したのだ、それでは入口を使わずに進入してきた賊はどうするつもりなのか?と。
泰明が式神を使って警護という意見も出たが、泰明は式神が見ている物を見ることができる。
つまり、湯船付近を式神が警護すればあかねの裸体が泰明の目に触れるかもしれないということで却下された。
かなりの勢いで却下したのはあかねだった。
そして議論は転がりに転がって、簡単じゃないかという結論に達した。
夫である頼久が一緒に入れば問題はない、というわけだ。
一行の中で一番腕が立つのも頼久だし、あかねが一緒に風呂に入ることを拒否しない唯一の男も頼久だ。
これで解決とばかり全員が納得した友雅の意見だったのだが…
夕陽に染まる温泉でそれでなくても愛しくてならない妻と裸の付き合いなど、頼久にとってはとんでもない災難でしかなかった。
これで、ここが自宅、もしくは二人きりでの旅先だったなら問題はなかったかもしれない。
が、ここは他の仲間と共にやってきた旅先で、あかねの愛らしさに理性を焼き切られた頼久が妻を襲っていい状況では決してない。
少将様の策略で(笑)二人で入浴することになったあかねちゃんと頼久さん。
あかねちゃんは安心してくつろいでるようですが、頼久さんは拷問状態です(笑)
湯煙の向こうに揺れるあかねちゃんのシルエットに身悶える頼久さんは…
みたいなお話の続きは連載にて!