連載予告企画第一弾 「その時彼は」
「頼久さん!」

 あかねの叫び声が頼久の耳に届いた。

 敵の気配は既に目前。

 新月では月明かりもなく、持参した明かりを奪われて夜目がきく頼久でも動きの素早い敵をはっきりと認識することは不可能に近い。

 それでも声と気配とで護るべき大切な人の位置を確認し、敵との間に我が身を置いた。

 何が起ころうとも、たとえ役目を果たせなくなったとしてもあかねを失うことだけは許されない。

 傷つけることももちろん避けなくてはならない。

 それが頼久にとっての最優先事項だ。

 だが、次のあかねの声に頼久は刀を正眼に構えたまま、眉間にシワを寄せることになった。

「頼久さん!殺さないで!」

 頼久にとってあかねは大切で愛しい妻でもあり、なおかつ自分の尊敬する女神でもある。

 つまり、あかねの言葉は絶対なのだ。

 だいたい、武士としてあかねに仕えていた過去の経験のせいで体があかねの言うとおりに反射で動くのだから逆らいようもない。

 あかねが殺すなと言うのなら、頼久には敵を殺すことは不可能。

 この絶対的不利な状況の中で、頼久はあかねを護りつつ、敵に対して本気で剣を振るうことを封じられてしまった。

 頼久は刀を構えたまま、眉間に深くシワを刻み込んで辺りの気配を探った。

 さきほどまで痛いほどに感じていた敵の気配が消えている。

 いや、消えたのではない。

 敵が押し殺しているのがわかる。

 それは今までそうして殺気を押し殺しながら近づいてきた刺客と戦い続けてきた頼久の勘であればこそ、とらえられる戦場の独特な空気だった。

「頼久さん!」

「承知致しました故、神子殿はそこでお待ちを!」

 この上あかねが近くにいたのでは、頼久はとてもではないが戦うことなどできなくなってしまう。

 とりあえずはあかねを安全と思えるほどの距離に残しながら頼久が更に敵の気配を探ろうとしたその時、頼久の耳がかすかな足音をとらえた。

 草を踏むかすかな音に頼久の体が思考よりも早く反応する。

 頼久は瞬時に放たれた殺気の方へと抜身の白刃を振りぬいた。





 暗闇の中、敵と遭遇する頼久。
 背にかばうのは己の命よりも大切な人。
 いまだ敵の正体はわからず、その腕前も定かではない。
 が、頼久は暗闇の中で巧みに殺気を押し殺す敵に脅威を感じていた。
 みたいなお話の続きは連載にて!