午睡と涙
 秋はだいぶ深まって、木々の紅葉も美しく、あかねが越してきた新しい屋敷の庭も赤く色づいた葉がちらちらと舞い始めている。

 京の冬は寒いだろうと予想していたのに、秋はまだけっこう暖かくて、あかねはよく縁に出て庭を眺めていた。

 ちらちらと舞う楓の葉に見惚れながら、あかねは欄干にもたれかかって静かにたたずむ。

 この世界に一人残ってどうなることかと思っていたけど、意外と毎日楽しく暮らせている。

 それもこれも、自分を気にしてくれている八葉のみんなや藤姫、なんといっても許婚の頼久のおかげだ。

 当然のように頼久は毎日会いに来てくれるし、八葉のみんなもあかねを気遣ってちょくちょく顔を見せてくれる。

 寂しいと思う暇も故郷を懐かしむ暇もないくらいだ。

 それでも朝少し早く目が覚めてこうして一人でたたずむ時くらいは両親のことなんか思い出すんだろうと思っていたのに、実際のところはそうでもない自分がいやに薄情な気がしてちょっと後ろめたい。

「でも、しょうがないよね、今のところは毎日楽しいし、こんなに気持ちいいし…。」

 そんなことをつぶやいて、あかねは思い切り深呼吸すると小春日和の暖かな陽射しを楽しんだ。





 頼久が朝の鍛錬を終えてあかねのもとを訪れたのはいつも通りの時間だったが、あかねはもう縁に出ていて、欄干にもたれかかっていた。

「おはようございます、神子、殿?」

 いつものように挨拶をしながら近づいた頼久の目に飛び込んできたのは、欄干にもたれて
 気持ちよさそうに眠るあかねの姿だった。

 規則正しい小さな寝息を立てるあかねはかわいらしくて、とても頼久には起こせるものではない。

 どうしたものかと少しだけ考えた頼久は、やはりこのまま自然にあかねが目を覚ますのを待つことにした。

 階に座ってあかねの寝顔を見ていると自分までなんだか安らかな気持ちになる。

 頼久の顔にはいつの間にか穏やかな笑みが浮かんでいた。

「…お母さん……。」

 急にあかねの口からこぼれ出た一言に頼久は凍りついた。

 見ればあかねはまだよく眠っているから、これは間違いなく寝言だ。

 いつも明るく楽しそうに「全然寂しくなんかないですよ」と笑って見せていたあかねだったが
、やはり寂しくないわけがないのだ。

 母を呼ぶ最愛の人の声はいつまでも耳に残って、頼久はしばらくその身を動かすことができなかった。

 数刻後に目覚めた許婚になんと言葉をかければいいだろう。

 どんな顔をして見せればいいだろうか。

 夢を見ていたのかと聞くべきだろうか。

 そんなことを頭の中でぐるぐると考え続けるしかできない自分に更に苛立ち…

 そして考えた末に頼久は起こさないように優しく、ゆっくりとあかねの体を抱きかかえた。

 目を覚ました時に一人ではないのだと、そのことだけは伝えられるように。

 言葉で伝えるのが苦手な自分だから、こんなことしかできないから、今はただ寂しさに震えて目を覚ますだろう愛しい人を抱きしめていよう、そう考えたのだ。

 さすがに体を動かされてすこしぐずったあかねだったが、頼久の膝の上にすっぽりおさまってからはそのまま頼久の腕の中で静かな寝息をたて始めた。

 そしてその顔にはうっすらと笑顔さえ浮かんで、頼久はほっと安堵のため息をつくと優しくあかねを抱きしめた。

 いつかは目覚めるだろうその時まで愛しい人の眠りを守ろうとする若者と、その腕の中で静かに眠る少女を小春日和の温かな陽射しがやわらかく照らしていた。




管理人のひとりごと

私は京に残ったあかねちゃん、そんなにホームシックみたいにならなかったんじゃ?と思ってみたり。
だって最愛の人と一緒で、あの八葉も一緒だし。
私だったら親より最愛の人と一緒の方がいいし、最愛の人が一緒なら以前の生活なんて思い出すこともないので(爆)
しかもお昼寝して目が覚めたら許婚の腕の中ですよ!
文句ないでしょう!(爆)





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