どんな姿も
この世界でやっていくと決めてからあかねには身につけなくてはならないことが山ほどあった。

たとえば、今挑戦している着替え。

「ん〜、なんか複雑だよぉ。」

女房達に囲まれてなんとか着物を重ね着していくあかね。

「ですから、神子様はそのようなことご自身でなさらなくても、女房達がいたしますのに。」

「着替えくらい自分でできた方がいいかなぁって。あぁ、でも十二単は絶対無理…。」

そう、今着せられているのは十二単。

前にも着たことはあるけれどこうして着方を覚えようと思うと予想以上に大変だ。

「水干はお気に召さないのですか?」

そう言って小首をかしげる藤姫に、あかねはなんとなく赤くなってしまう。

今までは外を出回らなくちゃならなかったし、怨霊と戦ったりしていたから動きやすい水干でもよかったけれど、今はそれじゃダメな理由がある。

「お気に召さないってことはないの。動きやすいし悪くないんだけど…。」

口ごもるあかねの顔をしたから覗き込む藤姫はきょとんとしている。

「神子様、終わりましたわ。」

「あ、有難うございました。」

礼などいらないと何度言われてもあかねは女房達に何かしてもらうたびに礼を口にしないではいられない。

そんなあかねに女房達も優しい笑顔で会釈して答えるのが日常の光景になっていた。

「さ、神子様、せっかくですから縁までお出になって庭でも眺められてはいかがです?」

「あぁ、うん、そうだね。」

こんな重たいもの着て動くのはやっぱり大変だなどと思いながらあかねは一歩一歩注意して縁へと歩いていく。

その隣を歩きながら藤姫は楽しそうだ。

「それで、どうして水干ではなくて十二単を着てくださるお心持ちになられたのですの?」

「えっとね…水干は確かに動きやすいんだけど…でもほら、おしゃれじゃないっていうか…こっちのお姫様はみんな十二単着てて綺麗だからその…頼久さんも、やっぱりちゃんと十二単着たかわいい子の方がいいかなぁって……うわっ。」

「神子様!」

やっと縁にたどり着いた、そう思った瞬間、あかねは十二単の重さに負けて前につんのめっていた。

そこはちょうど欄干のないところで、縁から地面へ落ちると反射的にあかねが目をきつく閉じた瞬間、ふわりとその体が何かに受け止められた。

恐る恐る目を開けてみると、どうやらあかねの体は誰かの腕に抱き止められたようで…

「大事ありませんか?神子殿。」

頭上から降るその優しい声は聞き間違えるはずもない許婚のもので、あかねはゆっくり自分を抱きとめている腕の主を見上げて顔を赤くした。

「大丈夫、です。ごめんなさい、慣れないことして…。」

「いえ、ご無事ならいいのです。それと…。」

「それと?」

「私はその…水干の神子殿こそ愛らしくていらっしゃると思いますので、無理に十二単などで着飾ることはなさらずとも…。」

「き、聞いてたんですね…。」

一段と顔を赤くする二人をそばで見ていた藤姫は檜扇で口元を隠してくすりと微笑んだ。

「頼久、神子様は身動きがしづらいと仰せです。神子様を局まで運んで差し上げなさい。」

「はっ。」

実直な武士頼久は主筋の少女の命に素直に従った結果……

あかねをすっと横抱きに抱き上げて歩み去った。

許婚の腕の中で更に真っ赤になる神子を送りだして、藤姫は満足そうに微笑むのだった。



管理人のひとりごと

あかねちゃんに十二単着せたかったんですよ(笑)
頼久さんのために一生懸命なあかねちゃん。
でも頼久さんはどんなあかねちゃんも大好きの図。
流れもありがちなんですが、一度はやっておきたかった十二単ネタ(笑)



プラウザを閉じてお戻りください