心をこめて
 忘年会をやろう。

 そう言い出したのは千尋だった。

 もちろん、忘年会なんて言葉は千尋、那岐、風早の3人が知っているだけで、あとはまかり間違って柊辺りが知っているかもしれないけれど、やろうなどと言い出すのは千尋くらいのものだ。

 風早は二つ返事で「いいですね」と笑顔で賛成したが、話をふると那岐は「めんどくさ」と一言言っただけで全く協力する気がないのは見ていてすぐにわかった。

 だから、全ての手配は千尋と風早で済ませた。

 忘年会といってもこちらの世界ではまぁ、ただの酒宴になるのだけれど…

 それでも1年を無事に過ごせたことを祝って、常世にいるアシュヴィン達も呼んで、旅に出ているサザキにも来てもらうことにした。

 みんな集まればそれだけで千尋は楽しいし、みんなで一緒に新しい年を迎えられるならそれにこしたことはない。

 宴の準備は風早がすぐに整えてくれたから、千尋はみんなへのプレゼントを用意した。

 一応、中つ国の王でこの世界を救った仲間達からは主とか王とか言われているわけだから、お年玉とまではいかないけれど何かしらのプレゼントを用意したかったのだ。

 全員分のプレゼントをそろえて千尋がこれでよしとうなずいたその時、千尋の部屋の扉がノックされた。

「はい、どうぞ?」

 誰だろうと千尋が小首を傾げていると扉の向こうからは遠夜が姿を現した。

 その顔には何やら楽しそうな笑みが浮かんでいる。

「遠夜、どうしたの?」

「これを、神子に。」

 そう言って遠夜が千尋に差し出したのは小さな壷のような器だ。

「これは、なに?」

「切り傷によく効く薬。神子は今でもよく怪我をしているから。」

「うっ、それは……ありがとう。でも、どうして?」

「今日は1年を無事に過ごすことができた祝いの宴だと聞いた。」

「うん、そうだよ。」

「だから、オレは神子のおかげで1年を幸せに過ごすことができたからその礼に。」

「遠夜……ありがとう。」

 やわらかく微笑む遠夜に笑みを返して、千尋は大事そうに両手で持っていた壷を机の上へ置いた。

 そして用意していたプレゼントの一つを遠夜へと差し出す。

 木箱に入っているそれを遠夜は小首を傾げながら受け取った。

「それは私から遠夜に。これからも宜しくね。」

「神子…。」

 遠夜は木箱の蓋を開けると、中を確認してからニコリと微笑んだ。

「気に入ってくれた?」

「神子、有難う。」

 そう言って遠夜は千尋の額に一つ口づけを落とすと、顔を真っ赤にしている千尋の前で木箱の蓋を元に戻し、それを大事そうに抱きしめた。

「大切にする。」

「うん。」

 本当にとても大切そうに木箱を抱いた遠夜は笑顔で扉の前に立った。

「また、夜、宴で。」

 それだけ言って幸せそうな笑みを浮かべた遠夜は千尋の部屋を出ていった。

 千尋が遠夜だけ先にプレゼントを渡しちゃったなと思っていると、そこへまた扉がノックされた。

「はい、どうぞ?」

「姫、今、少々よろしいでしょうか。」

 入ってきたのは布都彦だ。

 その手にはいつも布都彦が聞かせてくれる琴がある。

「布都彦、いいいけど、どうしたの?琴の練習してたの?」

「あ、いえ、これは、そうではなく……。」

 急に赤い顔をした布都彦は手にしていた琴を千尋の方へと差し出した。

「これは、その…姫に受け取って頂ければと。」

「へ?私?」

「はい。今宵の宴は1年を無事に過ごすことができたことを祝う宴と聞きました。私がこうして1年を無事に過ごすことができたのは全て姫のおかげです。ですからその……感謝の気持ちをと思ったのですが、私には他に姫に差し上げるようなものが思いつかず……。」

「でも、これをもらったら布都彦が弾く琴がなくなっちゃうじゃない。」

「いえ、これはいつも私が弾いているものとは違います……その、私が新しく作ったので、音は少々悪いのですが……。」

「布都彦が作ってくれたの?私のために?」

「はい…。」

「ありがとう!」

 千尋は大喜びで琴を受け取った。

 よく見ると確かに布都彦がいつも弾いているものよりは一回り小さいような気もする。

 弦を弾いてみるととても綺麗な音がした。

「でも、全然弾き方わからないから、今度、布都彦が弾き方を教えてね?」

「はい、それは喜んで。」

 千尋はすぐに琴を机の上に置くと、嬉しそうに微笑んでいる布都彦に遠夜に渡したのと同じ大きさの木箱を手渡した。

「姫、これは?」

「これは私から布都彦に。私も布都彦と一緒だったから1年とっても楽しかったから。それと、これからもよろしくね。」

 驚いた布都彦は慌てて箱を開けて中身を確認して、目を大きく見開いた。

「姫、このように高価なものは……。」

「ダメ、もらってくれないと。これは私からの気持ちだから。」

 しばらく考えた布都彦はどうあっても譲らないという様子の千尋の表情を確認して、険しい顔でうなずいた。

「では、喜んで頂戴いたします。我が家の家宝として大切に致します。」

「家宝なんてしなくていいから、ちゃんと身に着けてね。」

「はい。有難うございます。」

 布都彦が幸せそうな笑みを浮かべたその時、バサリと音がして千尋の背後の窓にサザキが現れた。

「お、先客か?わりぃ。」

「いえ、私はもう失礼しますので。」

 慌てて去ろうとするサザキにそう言って布都彦は千尋に一礼すると、大事そうに木箱を抱えてすぐに部屋を出て行った。

「悪かったな、邪魔して。」

「ううん、大丈夫だよ。それより、ありがとう、今日の宴のためにちゃんと戻ってきてくれて。」

「あったりまえだろ。オレが姫さんとの約束を破るわけねー。って、ま、渡したいものもあったからな。」

 サザキはそういうと懐から布の包みを取り出して千尋に渡した。

「何?これ。」

「今日の宴は1年を無事に過ごせた祝いの宴なんだろう?オレは姫さんのおかげでこの1年、退屈しなかったからな。まぁ、その礼、みたいなもんだ。受け取ってくれ。」

 千尋が包みを開けてみるとそこには銀の簪があった。

 装飾には真珠や宝石が使われていてとても綺麗だ。

「なんか、髪に挿して使う飾りらしい。」

「あ、うん、大丈夫、わかるよ。でもこれ、凄く貴重なものなんじゃない?」

「まぁ、オレが見つけたお宝の中ではかなりいい線いってるな。」

「もらっちゃっていいの?」

「おう!姫さんのために探したんだぜ。もらってくれなきゃオレの苦労は水の泡だ。」

 そう言って笑うサザキの言葉に甘えることにして、千尋は早速その簪を髪に挿してみた。

「似合う?」

「お、おう、に、似合ってるぜ。」

「ありがとう。」

 真っ赤な顔のサザキにクスッと笑いながら、千尋はやはり木箱をサザキに手渡した。

「それは私から。これからも宜しくねっていう意味もこめて。」

「オレに?」

「うん、そう。」

「お、玉(ぎょく)じゃねーか。」

「気に入ってくれた?」

「おう!さっすが姫さん、趣味がいいぜ。」

「よかって気に入ってもらえれて。」

「なぁ姫さん、オレはこんな嬉しい宝を贈られたのは初めてで気分がいいんだ、これから宴まで空の旅としゃれこもうぜ?」

 すっかりやる気のサザキに千尋が苦笑したその時、再び部屋の扉がノックされた。

 千尋が入室を許可すると、入ってきたのは憮然とした表情の忍人だった。

「げ。」

「なんだ、その『げ』というのは。」

「ひ、姫さん、オレはその…宴までその辺散歩してるわ。」

 忍人に一睨みされて慌てたサザキは千尋への挨拶も早々に、窓からすぐに飛び立った。

 苦笑でそれを送り出した千尋は、何やら不機嫌そうな忍人へと向き直る。

「忍人さん、どうかしたんですか?何か異変でも?」

「いや違う。今日は宴があると聞いた、1年を無事に過ごすことができた祝いの宴を君が開くと。」

「そうですけど、何かいけませんでしたか?」

「いや……そうではない…これを君に。」

「はい?」

 忍人が半ば押し付けるように千尋に手渡したのは遠夜がくれたのと同じような小さな壷だった。

 千尋は何がなんだかわからなくて小首を傾げる。

「えっと……。」

「中身は滋養のある木の実だ。君はいまだに無理をする。この1年は無事に過ごせたが、無理をすれば次の1年はどうなるかわからんからな。」

 ほんのり頬を赤くしてそっぽを向きながらそう説明する忍人を見て千尋はクスッと微笑んだ。

 どうやら忍人なりに千尋への贈り物を考えてくれたものらしい。

「それじゃぁ、これは私から忍人さんにです。これからも宜しくお願いします。」

 壷を机の上に置いて木箱を渡すと、忍人はいぶかしげな顔をしながら蓋を開けて中を確認した。

 その目が大きく見開かれる。

「これは…。」

「忍人さんには必要ないかもしれないですけど、お守りだと思って持っていてください。」

「玉、だな。」

「はい、いらない、ですか?」

 悲しそうに千尋がそう問えば、忍人は木箱の蓋を元へ戻してそれを懐へとしまいこんだ。

「いや、ありがたく頂いておこう。」

「ありがとうございます。」

「用は済んだ。宴の前に周辺を見回っておこう。」

「あ、はい、よろしくお願いします。」

 千尋が扉を開けて忍人を見送ると、今度は入れ違いにアシュヴィンがやってきた。

「アシュヴィン、きてくれてありがとう。」

「ふっ、中つ国の王が直々の招待とあっては来ないわけにはいくまい?」

 そう言って千尋ににじり寄ろうとしたアシュヴィンはあっさりそれをかわされて、すぐに部屋の中へ通された。

「挨拶にきてくれるのは嬉しいけど、もうすぐ宴で会えたのに。」

「つれないな、それに……。」

 アシュヴィンは千尋の髪に目を留めると、不機嫌そうに表情を崩してその髪に挿してあった簪を抜き取るとそれを机の上に置いた。

「ちょっと、アシュヴィン!」

「そう怒るな、俺がもっとお前に似合うものを用意した。」

「へ?」

 驚く千尋にアシュヴィンは懐から箱を取り出すと、その蓋を開けて中を千尋に見せた。

 箱の中にあったのは綺麗な細工で作られている白いユリのデザインの簪だ。

 ユリの花の部分には真珠があしらわれていてとても愛らしい。

「うわぁ、きれい…。」

 アシュヴィンは驚く千尋の髪に簪を挿すと、満足気にうなずいた。

「やはりな、よく似合う。」

「あ、ありがとう。」

「なに、宴に招待されたその礼だ。」

「じゃぁ、私からもはい。これからもよろしくね。」

 にっこり微笑む千尋の愛らしさに目を細めながらアシュヴィンは木箱を受け取り、中を確認してニヤリと笑った。

「玉か。」

「うん、アシュヴィンが用意してくれたものには及ばないけど。」

「いや、龍の神子からの頂き物だ。ありがたく身につけさせてもらうとしよう。」

「うん、お守りだと思って持っててくれると嬉しい。」

「俺はお守りなどより……。」

 そう言ってアシュヴィンが千尋に手を伸ばそうとしたその時…

「何やってんの?昼間っから。」

 アシュヴィンの背後から聞こえたのは那岐の声だ。

「ちっ。」

「ちっじゃないよ、まったく。千尋ももう少し警戒しなよね。」

「何を?」

 キョトンとしている千尋を見て那岐はあきれて首を横に振り、アシュヴィンは苦笑すると千尋の頭をぽんぽんと軽くなでた。

「まぁ、来客のようだからな、あとは宴の後にでも。」

 そう言うとアシュヴィンは上機嫌で那岐の前を歩み去った。

 後に残された千尋は小首を傾げるばかりだ。

「まったく、宴の後なんて、あいつがつきっきりで離れるわけないだろ。」

「あいつって?」

「千尋は気にしなくていいよ。それより、はい。」

 ぶっきらぼうに那岐から手渡されたのは金でできた指輪だった。

 不思議な色に光る小さな石がはめこまれた指輪は千尋の中指にぴったりだ。

「うわぁ、ありがとう。」

「お守りみたいなもんだよ。」

「もしかして鬼道で作ってくれたの?」

「まぁね、千尋は今でもおっちょこちょいだから。」

「そんなことないもん…じゃなくて、はい、これは私から那岐に。」

「何?これ。」

 千尋に半ば押し付けられるようにして渡された木箱を開けて、那岐はその口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「なるほどね。」

「私からもお守りをプレゼント。これからもよろしくね。」

「ま、一応持っておくよ。」

「一応って…。」

 文句を言おうとした千尋にさっさと背を向けて、那岐は軽く手を上げると部屋を出て行ってしまった。

 そんなところも那岐らしいが、どうやらプレゼントは喜んでもらえたようなので千尋はほっと胸を撫で下ろした。

「我が君、部屋の扉が少し開いておりました。いつ何時、花のかんばせを盗み取りに不貞な輩が侵入するとも限りません。ご用心下さい。」

 そういいながら扉を開けて入ってきたのは柊だ。

 相変わらずの物言いに千尋がクスリと笑みを漏らす。

「我が君?」

「柊は何か用?」

「はい、宴の前にと思いまして。」

 そう言って柊は千尋に歩み寄ると、懐から何かを取り出してそれを千尋の耳につけた。

「ええっ、イヤリング?」

「そう申すのでしたか。」

「なんで柊がこんなの……。」

「向こうの世界で目にしたことがあるものを作ってみました。この世に二人とない奇跡の女神にはお似合いであろうと思いまして。」

「ひ、柊はもう、またそういう大げさなことを…。」

「大げさではございません。我が君は私にとっては奇跡をもたらす尊き姫神子でございますれば。」

「ありがとう。じゃぁ、これは私から柊に。」

「我が君が私に、これは、光栄の極み。」

 千尋から渡されたのはもちろん木箱だ。

 その蓋を開けて中を見て、柊はニコリと微笑んだ。

「玉、でございますね。」

「そう、お守りになるといいなと思って。これからも宜しくね。」

「もったいないお言葉。私などにはもったいない品ではございますが、生涯、我が君のお心遣い、肌身離さず。」

 囁くようにそう言った柊が更に千尋ににじり寄ろうとしたその時…

「千尋、そろそろ宴の時間ですよ。」

「あ、風早、うん、わかった。さ、柊も一緒に。」

 右に柊、左に風早の手をとって千尋はニコニコと微笑みながら歩き出す。

 風早はそんな千尋を幸せそうな顔で見つめながら、そして柊は風早を睨みつけながら千尋と共に宴の会場へと急ぐのだった。





「みんなどうして急に気まずい空気になったのかなぁ。」

 宴の後。

 すっかり夜も更けた自室で千尋は小首を傾げていた。

 すぐ側には苦笑している風早の姿がある。

「全員おそろいって嫌だった?」

 そう尋ねる千尋の胸元には玉でできた勾玉が小さな灯りに輝いている。

「俺は嬉しかったですよ。」

 そう答える風早の胸にも千尋のものと同じ勾玉が輝いていた。

 そう、千尋が仲間達全員に渡した玉の首飾りは、実は全員おそろいで作ったものだった。

 そのことを宴で発表して千尋も同じものを身につけたのだが、そのとたんに場の空気が微妙になったのだ。

 準備を手伝っていた風早以外は皆、千尋が自分のためだけに用意してくれたものだと思っていただけに、全員おそろいとわかったときの思いは複雑だったのだが、それが千尋にはわからない。

 そんな千尋も可愛らしくて、風早は思わず微笑んでしまうのだ。

「でも、みんな外さなかったから嫌じゃないんだよね?きっと。」

「ええ、まぁちょっと驚いただけでしょう。」

「だったら、成功かなぁ。驚かせようとは思ってたから。」

 そう言って傍らの風早を見上げて千尋が微笑むと、風早は千尋の隣に座って懐から小さな包みを取り出した。

「遅くなってしまいましたが、これを。俺から千尋へのお年玉です。」

「お年玉って。」

 そう言って微笑みながら千尋が受け取った包みを開けてみると、そこには土器で作った可愛らしい麒麟が。

「うわぁ、かわいい!」

「お守りだと思ってこの部屋にでも置いといて下さい。」

「うん、ありがとう!」

 大喜びで寝台の近くの机の上に土器の麒麟を置くと、千尋はそれを幸せそうな笑顔で見つめた。

「今日は楽しかったなぁ。」

「よかったですね。」

「また1年後には宴を開こうね。みんな集めて。」

「そうですね。毎年やりましょう。そうすればみんなの近況もわかりますしね。」

「うん。」

 そんな会話を交わしている間にも千尋はうとうととし始めて、風早はそんな千尋を微笑を浮かべて寝台へと寝かせた。

「おやすみなさい、また1年が千尋にとって幸せなものでありますように。」

 幸せそうに目を閉じる千尋の額に口づけて、風早は微笑んだ。

 この心美しき姫に幸せな時が流れるように。

 自分はいつまでも側で見守っていよう。

 風早はしばらく静かに眠る千尋の側にたたずんでいた。








管理人のひとりごと

風早父さん自分の分身作って置いていきやがった!とか思ったら負けです(’’)(マテ
風早父さんが最後おいしいところを持っていってますが、それは管理人の趣味ってことで…
けっこう殿下もかっこよかったんじゃないかと…
全員のプレゼントシーン入れたら長くなった(っдT)
どのキャラのファンの方にもお楽しみ頂けたら幸いです♪
しかし、このギリギリの時期に一気書きしております…誤字脱字はご容赦を(TT)
何はともあれ、今年も終わろうとしております。
皆様にとって来年も幸多い1年でありますように、紫暗から心を込めて年越し短編でございました(^−^)









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