
千尋はうきうきと朝日の中を歩いている。
何故浮かれているかと言えば、ここ数日頑張って仕事をしたおかげで自由な時間をとることができたから。
今日だけは自由な時間を作ってずっと一緒にいたい人がいた。
だからここ数日は仕事に追われて大変だったけれど、それでもやっぱり頑張ってよかったと思いながら千尋は森を目指して歩いていた。
物にはあまり価値を見出さない人だから、プレゼントなんて思いつかなくて。
だから、今日一日はずっと一緒にいよう、そう決めて千尋は頑張ったのだ。
千尋は途中から駆け足になりながら目的の場所へ急いだ。
すると…
「神子!」
森へ入るとすぐ、千尋の姿を見つけた遠夜が目を丸くしながら千尋の方へと駆けてきた。
「遠夜、あのね、今日は…。」
突然千尋の言葉が途切れた。
駆け寄ってきた遠夜は千尋をその腕の中に閉じ込めるとぎゅっと抱き締めてしまったから。
「会いたかった、神子…。」
千尋を優しく抱き締めてその耳元で囁いた遠夜は、真っ赤な顔をした千尋に腕をつぱられて初めて千尋を解放した。
「うん、私も会いたかったけど、急にこんなことされたらびっくりするよ、恥ずかしいし…。」
「恥ずかしい?」
「ちょっとだけ、ね……。」
「……。」
「ちょっとだけだから!それに、今日はずっと一緒にいられるからそんなにしなくても…。」
真っ赤な顔で千尋が慌ててそう言うと、遠夜は小首を傾げた。
「そうだ!遠夜、お誕生日おめでとう!」
「お誕生日?」
「そう、今日は遠夜が生まれた日だって言ってたでしょう?だからお祝いしようと思って。」
「神子……ありがとう。」
遠夜は目を細めて嬉しそうににっこり微笑んだ。
その姿が愛らしくて、思わず千尋の顔にも笑みが浮かぶ。
「何かお祝いの贈り物をしようかなって思ったんだけど、遠夜ってほしいものがなさそうだし、私じゃ遠夜みたいに上手に歌うこともできないから、だから、今日はずっと一日遠夜と一緒にいて、遠夜と楽しく過ごそうかなって思ってお休みをもらったの。」
「休み?本当に?」
「うん、本当。今日はずっと一日中遠夜と一緒。遠夜は何かしたいことある?」
わくわくしながら千尋が尋ねると、遠夜は嬉しそうに微笑んだまま千尋を再び腕の中に閉じ込めた。
「えっと、遠夜?」
「こうしていたい。」
「へ?」
「オレは神子とこうしていられればそれでいい。」
綺麗な優しい声でそんなふうに言われて、千尋は顔を真っ赤にしながら遠夜の胸に寄り添った。
遠夜がこれが一番いいというのならそれでいいのかもしれないけれど…
一日中このままではいられない。
「と、遠夜、あのね、一緒にいるのは一緒にいるんだけど一日ずっとこれはちょっと…。」
「いけないだろうか?」
「い、いけないっていうわけじゃなくて…ほら、もっと一緒に色々なところを散歩するとか……。」
必死になって千尋がそういうと、遠夜はすぐに千尋を解放してその手をとると足取りも軽く歩き出した。
「遠夜?」
「神子は散歩がしたいと言うから。」
「わ、私がしたいっていうわけじゃないんだけど…。」
もごもごとそういいながらも隣を歩く遠夜の顔を見るととても幸せそうなので、千尋はそれ以上言うのをやめた。
握っている手から伝わるぬくもりはとても優しくて、千尋の心まで温かくなる。
二人で歩く森の中はとても気持ちがいいし、景色も綺麗だ。
「気持ちがいいね。」
そう言って隣を見れば、嬉しそうに微笑む遠夜。
相変わらずあまりたくさん言葉を交わすことはないけれど、でもこうして一緒にいれば伝わる想いが暖かい。
とはいっても、ただひたすら森を奥へ奥へと歩くだけでは芸がない。
人の気配がしないどころか、一度も人が入ったことがないのではないかというくらい奥までやってきてからその歩みを止めた。
「えっと、遠夜、もうけっこう奥まで来たけど……。」
「大丈夫、道ならわかる。」
「そうじゃなくて…。」
遠夜が森に詳しいのはよく知っている。
薬を作るための薬草なんかも森で集めているのだろうし、そもそも遠夜は人といるよりもこういった森に住む妖達と親しくしていたのだ。
千尋は首を傾げる遠夜に苦笑した。
「遠夜が道に迷ったなんて思ってないの。ただその、歩いてるだけでいいのかな?と思って。」
「神子は散歩は飽きたのか?」
「私がじゃなくて、遠夜はもっと他にしたいことはないの?」
千尋がそう尋ねればその小さな体は再び遠夜の腕の中に閉じ込められてしまった。
これでは話が元に戻っただけだ。
千尋はあわてて遠夜の胸を押して体を離すと、はぁと溜め息をついた。
「他にはないの?したいこと。」
遠夜は千尋に見上げられて考え込んだ。
他にしたいこと、しかも千尋と二人で。
そう考えるとなかなか出てこない。
千尋は忙しい身だから、そう簡単に二人きりになる時間はとれない。
だから、こうして二人でいるだけでも嬉しいし、千尋の小さな体を抱きしめていられるならそれも嬉しい。
でも、それ以外のことと言われると何がしたいのかなかなか思いつかない遠夜だ。
「私にできることならなんでも協力するよ?今日は遠夜の誕生日だから。」
「神子…。」
千尋の言葉に嬉しそうに遠夜は嬉しそうに目を細めると、その手を千尋の方へ伸ばした。
遠夜の繊細な手が千尋の頬をなでたのは一瞬のこと。
次の瞬間、千尋は遠夜に口づけられて目を大きく見開いた。
一瞬何が起きたのかわからなくて、でも次の瞬間、自分がどうなっているのかに気付いて千尋の顔が一瞬にして真っ赤になった。
でも、どうしても遠夜を押しのけることができなくてそのままでいると、やがて遠夜の唇が離れてそのまま優しく抱き寄せられたかと思うと、遠夜が千尋の頭に頬ずりを始めた。
「ちょっ、遠夜!」
これには慌てて千尋が体を離すと、遠夜の目が不安げに揺らいだ。
「神子…。」
「こ、これがしたいこと?」
真っ赤な顔でそう尋ねると遠夜はしっかりうなずいた。
「神子が嫌なら二度としない…。」
「い、嫌じゃないから!」
急に悲しげに曇る遠夜の顔に慌てて千尋がそう否定すれば、遠夜は恐る恐る千尋の顔をのぞきこむ。
「本当に。」
「うん、本当。でも、遠夜のしたいことって本当そんなことしかないの?」
「オレはワギモと一緒にいて触れていられたらそれだけでいい。」
ニコッと微笑む遠夜を見ると、もう千尋には突然の行為を怒ることもできない。
千尋は照れ隠しに遠夜の腕を抱くと、元きた道を戻り始めた。
「神子?」
「遠夜にやりたいことがないなら私のやりたいことに付き合ってくれる?」
尋ねながら隣を見れば遠夜は嬉しそうにうなずいた。
「じゃぁ、一緒に帰って一緒にご飯を食べて、それから一緒に話をしてお昼寝をして…どう?」
「そうできたらオレも嬉しい。」
「よかった、じゃぁ、急いで帰ろ。」
「それに…。」
「何?」
「こうして神子が触れてくれるのはもっと嬉しい。」
千尋に抱かれた自分の腕を見てにっこり微笑む遠夜は本当に嬉しそうで…
顔を真っ赤にして照れながらも千尋はしっかりと遠夜の腕を抱いたまま歩いた。
いつも優しくただそばにいて、いつも自分を待っていてくれる人だから。
誕生日の今日くらいは幸せにしてあげたい。
千尋は遠夜の腕をしっかり抱いて、宮への道を急ぐのだった。
管理人のひとりごと
帰省から戻りまして一気に書いてますので、誤字脱字はご容赦を(っдT)
遠夜のお誕生日お祝い短編でございます♪
遠夜はああいう人なのできっと物への執着は皆無(笑)
一番ほしいのはワギモに決まってますね!(マテ
ということで、ちゃっかり千尋ちゃんの唇ゲットなお話になりました(’’)
急いだのでちょっと短めになりましたが、遠夜、お誕生日おめでとうでした(^^)
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