
千尋はうーんっと伸びをしてそれからゆっくり深呼吸した。
政務が一段落したのでここで休憩。
「はい、どうぞ。」
そう言ってお茶を出してくれたのは風早。
「有難う。」
「遠夜もどうぞ。」
「すまない。」
千尋と共にお茶を受け取った人物がもう一人。
それは部屋の隅に座っていた遠夜。
風早は二人にお茶を渡すといつもの笑顔で部屋から出て行った。
何故ここに遠夜がいるのかというと、それは、もう二度と神子と離れないと言って聞かない遠夜が政務の間も黙ってじっと千尋の側についているからだ。
千尋は苦笑しながら遠夜を見つめた。
「神子?」
「遠夜はつまらなくない?いっつも私の後ろでじっとしてるの。」
「オレは神子の側にいられればそれでいい。」
「ん〜、わからなくもないんだけど…もうこの国は平和になったし、そんなに危険なこともないし、これからも遠夜とはずっと一緒にいられるから、そんなふうにいつもぴったり一緒にいなくても大丈夫だよ?」
「オレが側にいると、神子は迷惑か?」
「そ、そんなことはないんだけど…。」
迷惑ではないけれど、ぎょっとすることはたくさんあり…
たとえば、どうしても千尋と一緒にいると静かだが頑として譲らない遠夜は、なんと夜寝る時も千尋と同じ寝床で寝ると言い出したりした。
さすがにこれには目が笑っていないにこやかな風早に物凄い殺気で却下されて、遠夜は悲しそうな顔で千尋の隣の部屋で眠るということで落ち着いた。
千尋は「そういうことはまだ早いってわかりますよね?」と言った時の風早の刺さるような笑顔をしばらく忘れられそうにない。
「神子が迷惑ならやめる、だが、神子が迷惑でないのなら、ここにいたい…。」
お茶の入った器を見つめてぽつりとそういう遠夜はとてもはかなげだ。
「ああああ、えっと、迷惑じゃないの。本当は私も遠夜と一緒に出かけたりとか色々できたらいいんだけど、なかなかできないでしょう?だから遠夜はつまらないだろうなって思っただけ。」
「つまらなくない、神子がいる。」
視線をあげた遠夜はそう言って優しく微笑んだ。
千尋はというと、こういう遠夜のストレートな表現にはいつも照れてしまって何も答えられなかった。
今も、顔を赤くしてうつむくばかりだ。
「神子、顔が赤い、熱があるのか?」
「ないないない!大丈夫!元気一杯!」
「なら、いい。」
とても心配そうな顔で千尋を覗き込んだ遠夜はすぐにまた笑顔を取り戻した。
大切な人と死に別れた記憶があるから遠夜が自分を必要以上に心配するのはわからないでもないけれど、千尋としてはちょっとしたことで心配されてしまうのでドキドキだ。
「あ、そうだ、柊と道臣さんに聞きたいことがあったんだ。ちょっと行って来るね。」
「神子が行くなら、オレも行く。」
千尋が立ち上がると同時に遠夜も立ち上がる。
これはもういつものことなので、千尋は苦笑しながら何も言わずに部屋を出た。
千尋と遠夜、二人が並んで歩くのはもう橿原宮ではいつもの風景だ。
官人達も二人の邪魔をしないよう、余計な挨拶はせずに目礼だけして去っていく。
千尋はそんな官人達に苦笑しながら遠夜と二人、ゆっくり歩く。
まず向かうのは道臣のところ。
何故なら、柊よりも遙かにどこにいるかわかりやすいから。
道臣はたいてい与えられた執務室で政務に追われている。
だから、千尋が向かったのは道臣の執務室だ。
「道臣さん、ちょっといいですか?」
「陛下、どうぞ、お入り下さい。ああ、遠夜もどうぞ。」
やわらかな笑顔の道臣に招かれて、千尋と遠夜は中へ入る。
ここからはもう千尋が一方的に道臣に質問をし、それに道臣が丁寧に答えるだけだ。
そして遠夜はというと、その様子をただ黙って見つめるのみ。
熱心に質問して、その答えを記憶しようとする神子は遠夜にとって微笑ましい存在らしく、その顔にはいつも微笑が浮かんでいる。
「わかりました、有難うございました。」
「いえ、陛下のお力になれるのでしたらいつでもまたご質問下さい。よろしければ菓子でも用意しますが、少し休んでは行かれませんか?遠夜も一緒に。」
「あ、有難うございます、でも、これからまだ柊の所に聞きにいくことがあるんです。」
「そうでしたか、では、お茶はまた後日に。」
「はい、有難うございました。」
そう言って千尋がペコリと一礼して道臣に背を向けると、何も言わずに遠夜がそれに続いた。
優しく見守る道臣の視線に見送られて、次に二人が向かうのは柊のもとだ。
といっても、柊は見つけるのが難しい。
「さてっと、どこにいるかな、柊。」
「この前は、木の下で寝ていた。」
「そうだね、その前は木の下で竹簡読んでたね。」
千尋の言葉に遠夜がうなずく。
「ということは、木!木のあるところに柊はいる!」
と、何やら楽しげに断じて千尋は宮を出た。
「陛下にはまたお出かけですか?」
宮を出て最初に声をかけてきたのは忍人だ。
どうやら部下の訓練を終えて戻ってきたところらしい。
だが、いつもは千尋の外出を止める忍人が、隣にいる遠夜を見てため息をついた。
「供を連れずに外出はお控え下さいと申し上げようかと思いましたが…。」
「うん、遠夜がいてくれるから大丈夫ですよ。」
「…なるべくなら供を連れての外出もお控え頂きたいものです。」
「あ、えっと、今はちょっと柊を探してて…。」
と、千尋の言葉を聞けば、忍人はさっきよりもっと深い溜め息をつく。
「あの空に浮かぶ雲というよりは湖に浮かぶゴミのようにフラフラした男は、とてもどこにいるか見当がつくものではありません。」
「あははは、相変わらずですね、忍人さん。でも、大丈夫!心当たりがあるから行ってみます!」
「止めても無駄なのでしょうね。遠夜、陛下を頼んだぞ。」
「わかっている。オレは神子の側を離れない。」
忍人に見送られて千尋と遠夜は再び歩き出す。
二人がすぐに到着したのは宮の近くにある森だった。
木漏れ日がきらきらと綺麗で、千尋が感動していると遠夜が人影を見つけた。
「柊?」
気づいて千尋が声をかければ、木の根元に座っていた人影はじろりと千尋を見上げて不機嫌そうに顔をゆがめた。
「その名前を持つヤツに間違われるの、凄く納得いかないんだけど?」
「那岐かぁ。」
「しかもがっかりされるわけ?」
「ご、ごめん。柊を探してたから…。」
「この辺にはいないと思うよ。だいぶ前からここにいるけど、人の気配さえしなかったし。」
「そっかぁ。どこにいるんだろう、柊…。」
「それにしても。」
といって那岐の目は千尋の後ろにいる遠夜へ向けられた。
その視線が遠夜の頭の先からつま先までをじろりと見つめる。
「相変わらずくっついて歩いてるんだな、お前。」
「神子はオレのワギモだから…。」
「…ストーカーみたいなんだけど?」
「那岐!」
「すとーかー?」
「遠夜!気にしなくていいから!那岐も変なこと言わないで!遠夜はそんなつもりでついてきてるんじゃないの!私もいやじゃないからいいの!」
「あ、そ。」
それ以上は興味ないとでも言うように、那岐はさっさと昼寝を再開した。
「もう、言いたいことだけ言って寝ちゃうんだから、那岐は。行こう、遠夜。」
千尋は、はぁ、と溜め息をついて歩き出した。
そして遠夜はもちろんその隣をついて離れない。
「神子、すとーかーとはなんだろう?何か、悪い音に聞こえた。」
「あれは那岐がふざけて言っただけ。遠夜は気にしなくていいの。」
「神子がそういうなら気にしない。那岐はオレが嫌いなのだろうか、土蜘蛛だったから…。」
「ああ、違う違う。那岐はいっつもああなの。誰にでもああなの。だから気にしないで、ね。私は遠夜が大好きだし。」
「神子…わかった、神子が大好きと言ってくれるなら気にしない。」
心の底から嬉しそうに微笑まれて、千尋は顔を赤くして歩く足を速めた。
いつだって遠夜は本気で真剣でストレートで、だからこそその言葉で紡がれる想いは本物で暖かい。
「そ、そうだ、もう柊がどこにいるかちょっと見当もつかないし、一緒に散歩しちゃおうか?」
「神子…誰かのためじゃなくてオレのために歩いてくれる…。」
「うん、そう。どう?」
「神子がそうしたいなら、オレは神子と歩く。」
「じゃ、散歩に行っちゃおう、柊は後で風早に呼んできてもらうね。」
風早も見つけられるかどうかはわからないけど、と、心の中でつぶやいて千尋は遠夜の手をとった。
「神子…こうしていると神子が手から伝わる…暖かくて、優しい…。」
「遠夜…手をつなぐの好き?」
「神子が伝わるから、オレはいつも神子の側にいたいけれど、いつもこうして神子と触れていられたらもっと嬉しい。」
「と、遠夜っ!」
「?オレは、神子が何か困るようなことを言ったのだろうか?」
「……言ってない、かな…。」
真っ赤な顔でそう言って、千尋は遠夜の手を引いて歩く。
いつだって常に自分に向けられているまっすぐで暖かい恋情を感じながら。
そして遠夜は、やっと見つけたただ一人のワギモと共にいられる幸せをその顔一杯の笑顔で現しながら、千尋の手をギュッと握った。
管理人のひとりごと
いつでも一緒!某ゲームとはなんら関係ありません!(爆)
いつも後ろをてちてちとついてきてくれる遠夜、かわいすぎる(>▽<)
那岐にはストーカー呼ばわりされてますが(笑)
何気に風早お父さんに牽制されてますがそこは管理人の趣味ってことで(’’)(マテ
いつも触っていたいとかさらっと言っちゃう遠夜。
彼は普通の人とは違うから裏表がなくて素直でストレート。
管理人のイメージはそんな感じです(^^)
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