
「ああああああ、ここはいいから、サザキはそっちにある木の実を刻んでくれる?」
「お、おう…。」
白い粉で汚れに汚れている手を桶に汲んであった水で手早く洗って、サザキは包丁を手にした。
普段、料理はカリガネの担当だから、サザキが包丁を握った経験は皆無に等しい。
それでも包丁を握って千尋の隣に立っているのには訳がある。
ここ数日、千尋がカリガネに独占されていた。
それがサザキが進んで包丁を握った理由の全てだった。
もちろん、千尋がカリガネと一緒にいたのはサザキのためだとサザキもわかってはいる。
それでもやっぱりサザキにとってカリガネと千尋が二人きりで調理場にこもるのは気分のいいものではなかった。
だから、とうとうサザキは自分から立候補したのだ。
千尋の助手に。
ところが、やってみると料理というヤツはこれがなかなか難しくて、失敗に続く失敗。
千尋は笑って許してくれるけれど、サザキとしては千尋の足を引っ張りっぱなしで額からは脂汗が流れていた。
きっと料理が得意なカリガネは千尋の隣で手際よく調理をして見せるのだろう。
もしかしたら千尋ができないことまでできるのかもしれない。
そう思うと自分が情けなくてしかたがない上に、どうしようもない嫉妬の念が胸の奥に淀んでしまう。
サザキは深い溜め息をつきながら木の実との格闘を開始した。
今回はこの木の実を細かく刻むことが任務なのだけれど…
サザキの握った包丁はなかなか小さな木の実を砕いてはくれない。
それでもこれだけは成し遂げようと、サザキは汗だくになりながら包丁をふるった。
「あ、サザキ、それくらいでいいと思う。有り難う。」
「お、おう。」
自分では上手くてできたとは思えないのに、思いがけなく千尋に満面の笑みで「有り難う」と言ってもらえたサザキは、その笑顔に見惚れながら頭をかいた。
千尋はというと、今までこねていた生地にサザキの砕いた木の実を加えて更にこねると、それを器用に小さく小分けにしてまとめ、鉄板に並べて窯に入れた。
「これでよしっと、あとは焼き上がりを待つだけだからね。」
くるりと振り返って微笑む千尋にサザキは上の空の返事をしながらうなずいた。
どうやらこれでサザキにとっての苦行は終了したらしい。
ほっと安堵の溜め息をつくのと同時にサザキは自分の頬が千尋の手で撫でられるのを感じて目を見開いた。
「ひ、姫さん?」
「サザキったら、ほっぺたに粉つけてるんだもん、子供みたい。」
千尋は丁寧に優しくサザキの頬をぬぐいながら微笑んだ。
その笑顔を見れば千尋が楽しんでくれているのはよくわかるのだけれど、サザキとしてはなんの役にも立てなかった自分が情けないばかりだ。
「サザキ?さっきからどうかしたの?」
「いや……悪かったな。」
「何が?」
「その……役に立たなかっただろ…。」
「そんなことないけど、一人で作るよりずっと楽しかったし。サザキは自分が思ってるより下手じゃないと思うけど……あ、カリガネと比べちゃだめだよ?カリガネは私なんかよりずっと料理上手なんだから。」
「それは……。」
「本当はこのお菓子は向こうの世界では一人で作って大好きな男の人にあげるものだから、一人で作るつもりだったんだけど、今回は手伝ってもらってよかったなって思ってたの。凄く楽しかったから。」
「向こうの世界って…何か意味のあるもんだったのか?これ。」
「うん、今日はバレンタインって言ってね、私が育った世界では、女の子が大好きな男の人に気持ちを告白しながらお菓子を渡す日なの。だから私も一人で作ってサザキにあげようと思ったんだけど、二人で作った方がずっと楽しかった。」
「姫さん…。」
サザキはつくづく、自分は現金だと思う。
こうして目の前で千尋が大好きと言ってくれるだけで、二人でいて楽しいといってくれるだけで、ついさっきまで胸の奥につまっていた濁った感情があっという間に消えていくからだ。
「えっと、サザキ。」
「ん?」
「大好き。」
「お、おう。」
「だから、焼きあがったら二人で作ったお菓子、二人で食べようね。味はカリガネが保証してくれたから。」
「カリガネなんかが保証しなくったって、姫さんが作ったんなら美味いに決まってるさ。」
「だといいけど…でも、おいしくなくても今日は共同責任だからね!」
「美味いに決まってる。姫さんが心をこめて作ってくれたんだからな。」
そう言ってサザキは千尋を抱き上げると、スタスタと部屋を後にした。
サザキの腕の中で千尋は何も言わずにニコニコ微笑んでいる。
楽しそうに笑うサザキの顔を見れば、これから何をしようとしているのかはわかっているから。
そして二人は外へ出て……
お菓子が焼けるまでのつかの間を空を散歩して過ごすのだった。
管理人のひとりごと
バレンタイン企画、サザキバージョンでした!
ここはお料理職人カリガネさんがいるからね(笑)
どこのバージョンよりもおいしいお菓子ができるよ!絶対に!
だいたい、最初に出会った時も確か千尋さん、餌付けされてたよね(’’)
まぁ、たまにはサザキに手伝ってみてもらいました。
プレゼントしたり一緒に食べたりもいいけど、一緒に作るもステキだと思います!
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