
今日こそは。
そう言い続けて何回失敗したか知れない。
そしてサザキはもちろん懲りずに、今度こそはと計画を立てていた。
何の計画かといえばもちろん、千尋に本当に姐さんとなってもらうべく、きちんと求婚をする計画だ。
船上では絶対仲間に邪魔をされる、陸に上がっても知り合いに出くわせばまた邪魔が入る。
ということは、絶対に誰も邪魔に入ることができない場所に千尋を連れて行くしかない。
それがサザキの出した結論だった。
最初はどこか散歩へ連れ出すのもいいだろう。
なんならカリガネに焼き菓子の一つも作らせて、それを景色のいいところで食べないかと誘うのもいい。
なんといっても千尋はカリガネの作るお菓子には目がないのだ。
その後、何か理由をつけて目的の場所へ連れ出せば今度こそきっとちゃんと求婚ができる、はずだ。
サザキは一晩寝ずに必死で考えて計画を練っていた。
そして今日、とうとう雲一つない晴天に恵まれ、計画を実行することにしたのだった。
まずはカリガネに焼き菓子を作らせようとカリガネの部屋を訪ねてみればその姿はなく、すぐにサザキは厨房へ向かった。
するとそこには料理中のカリガネの姿が。
「カリガネ、あのな……。」
焼き菓子をと頼もうとしたサザキにカリガネはすっと何かを差し出した。
カリガネの手の上に乗っていたのは小さな包みだ。
「な、なんだ?」
「持っていけ、少し小さめに作った焼き菓子だ。」
「お、おう…。」
サザキは言われるままに包みを受け取ると、釈然としないながらも目的を達したので厨房を後にした。
まさかこんなに早く焼き菓子が手に入るとは…
予定外ではあっても目的は達成されたのでサザキは焼き菓子の包みを懐へ入れるとそのまま千尋の部屋を目指した。
先に他の予定を入れられてはたまらない。
ここは急いで誘いに行かなくてはと思ったからだ。
はたして、千尋の部屋を訪ねてみれば、すぐに千尋が顔を出してくれた。
「おはよう、サザキ。」
「お、おう。あのな、姫さん。」
「何?」
「その……なんだ、今日は天気もいいしな。」
「そうだね、凄く天気がいいね。」
「ひ、姫さんさえよければちょっと散歩にでもいかねーか?」
「うん、いいよ。」
あっさりOKした千尋はニコニコと微笑んでいる。
サザキはほっと安堵の溜め息をついた。
「どこに行こうか。」
「そ、そうだな、近くに見晴らしのいい場所があるのを見つけたんだ、そこ、いかねーか?」
「うん、わかった。」
サザキが予想していた以上にあっさりと千尋はサザキに連れ出され、船をおりて二人一緒に歩き出す。
これまでさんざん失敗してきたサザキとしてはあまりにもあっさりしていて拍子抜けしたほどだ。
「本当に天気がいいね。凄く気持ちいい。」
「だな。」
二人は体が触れ合うかどうかというほど近くに並んで歩いていく。
空は晴天、雲一つなし。
風はゆるやかでとても心地いい。
それなのに、サザキは何やら落ち着かなくて、辺りをキョロキョロ見回したり、溜め息をついたりしている。
そんなサザキをたまに盗み見て千尋は微笑んだ。
隣を歩くサザキは落ち着かなくてそわそわしているけれど、そんなところがなんだか可愛らしいから。
二人はしばらく気持ちよく並んで歩いて海を見下ろせる丘をのぼった。
小さな丘だが上までのぼると陽にきらめく綺麗な海が一望に見渡せた。
「うわぁ、綺麗。」
千尋は丘に登りきるとすぐにそう声をあげて喜んだ。
「姫さん、せっかくいい景色だ、眺めながらこれ、食おうぜ。」
サザキはそう言って懐からさきほどカリガネから渡された包みを取り出して千尋へ差し出した。
受け取った千尋はすぐに包みを開いて中身を確認して、嬉しそうに微笑む。
「カリガネのお菓子だね、有難う。」
一口サイズに小さく作られたその焼き菓子を食べながら二人はしばらくそこへ座って景色を堪能することにした。
穏やかな風に立つ小さな波が陽の光を反射する海はキラキラしていてとても綺麗だ。
「宝石みたいだねぇ。」
「あ?ああ、海がか…。」
「そう。海の上にいても色々楽しいことはあるけど。」
「そうか?」
「うん、たとえば釣り!最近教えてもらったけど、海って色々な魚が釣れるでしょう?釣れない時間もみんなとおしゃべりしたり考え事したり、けっこう楽しかった。釣れたらそれを夕飯にしようとか、それも楽しいし。」
「姫さんが船の生活を楽しんでくれてんならオレとしては有り難いけどな。」
「すっごく楽しいよ。でも、海の上にいるとそういう身近な楽しさはわかるけど、こんなふうに海を眺めることってあんまりないじゃない?だから、こうして上から見る海も綺麗でいいなって今ちょっと思ったの。」
ニコニコと楽しそうに話す千尋を見ていると、緊張していたサザキもいつの間にか笑みを浮かべていた。
そう、いつだって千尋の笑顔は太陽のように輝いていて、周りのみんなを笑顔にしてしまう。
そんな千尋に惹かれてさらってきたのだと改めて実感して、サザキは空を見上げた。
「なぁ、姫さん。」
「なに?」
「少しだけ、一緒に空、飛んでくんねーか?」
どうして?とは聞かずに千尋はただカリガネの焼き菓子の最後の一つを口の中へ放り込むと、にっこり微笑んでうなずいた。
「うん、空の上からならきっともっと海が綺麗だろうし、久しぶりに連れて行ってくれる?空の散歩。」
「おう!」
勢いよく返事をしてサザキはさっと千尋を横抱きに抱き上げると、背の翼を思い切り広げた。
そして千尋が嬉しそうに自分の首に腕を回すのを確認してから広げた翼をはばたかせる。
千尋がふわりと体の浮き上がる感覚を感じた次の瞬間、二人の体は空高く舞い上がっていた。
眼下に見えるはキラキラと陽の光を乱反射する水面。
そして遙か彼方にまっすぐの水平線。
千尋は軽くサザキの首に抱きついたままその美しい景色に見惚れた。
「やっぱり空からだともっと綺麗。」
うっとりとそういう千尋の声の美しさに聞き惚れながら、サザキは一つ深呼吸をした。
大丈夫。
いつもよりはずっと落ち着いている。
ここでなら、青空の中でならきっとちゃんと想いを伝えることができるはずだ。
そう自分に言い聞かせてサザキは口を開いた。
「ひ、姫さん。」
「なに?」
「その、なんだ……ここからは真剣な話、な。」
「うん。」
「オレはなんていうか、海賊、だからな、こう、姫さんをさらってきちまったわけだが…。」
「そうだね、でも、私もさらわれたかったから自分からさらわれてきたんだよ?」
「そ、それは…そう言ってもらえると……じゃねぇや、姫さん!」
「なに?急に大きな声出して。」
「オレはこのオレの翼にかけて誓う!姫さんを一生、世界一の宝と思って大切にする!だから…なんだ、その………生涯の伴侶ってやつに、なってくれねーか?!」
サザキの千尋を抱く腕に思わず力が入った。
もしここで躊躇されたら?
躊躇ならまだいい、もし、断られたら?
そんなことばかりが頭の中をよぎってサザキは額にじっとりと汗をかいた。
だが…
「うん、喜んで。」
「……。」
「サザキ?」
「……ほんとか?」
「うん。断るわけないでしょう?」
「姫さん……。」
腕の中でにっこり微笑みながらサザキの額の汗をぬぐう千尋。
サザキはそんな千尋を見て思わず安堵の溜め息をついた。
「ここで溜め息つかれるとちょっと複雑だよ。」
「た、溜め息ってーかその…ほ、ほっとしたんだ…。」
「サザキは私が断るって思ったの?」
「いや、そこまでは……その、迷ったりとか、ちょっと考えるとかは、な。」
「まさか、そこで迷うくらいならさらわれてきてないよ。」
そう言ってクスクスと笑みをこぼした千尋はきゅっとサザキに抱きついた。
「やっと言ってくれたね。」
「ん?」
「何回も言ってくれるのかな?って思ったことがあったんだけど、サザキなかなか言ってくれないから。今日こそきっと言ってくれるからって仲間のみんなに言われて、ちょっと楽しみにしてたの。だから、嬉しかったよ。」
「……。」
邪魔をしてたのはどこのどいつだ…
サザキは力いっぱい胸の中で叫んだ。
まさか千尋に全部バレていたとは…
「あいつら……。」
「サザキ。」
「ん?」
「これからも宜しくね。」
そう言って千尋はそっとサザキの唇に自分の唇を重ねた。
どうやら自分をからかっていたらしい仲間達のことを思っていたサザキは不意をつかれて目を丸くする。
両腕は千尋を抱えるためにふさがっていて、サザキには何もできなくて…
千尋が唇を離してやわらかく微笑んだ時にはサザキはパチパチと激しく瞬きするしかできなかった。
「一生の伴侶になりますっていう約束の証、ね。」
「姫さん……。」
そう呼んでサザキは深い溜め息をついた。
まったく、このお姫様にはかなわない。
「私が暮らしてたもう一つの世界ではそういう儀式があるの!」
「じゃ、オレからもな。」
そう言って赤い顔でサザキは千尋に口づけて、すぐに顔を離すと翼を大きく羽ばたかせて高度を上げた。
「きゃっ、サザキ!そんなに高く飛んで大丈夫?」
「だ〜いじょうぶだって、オレに任せとけ!一生、オレに任せとけ!」
そう言ってサザキは高く高く舞い上がる。
「…うん。」
千尋はサザキの腕の中で幸せそうにやわらかく微笑むとうっとりとサザキにもたれた。
力強い腕が体を支えて力強いはばたきが高く高く体を浮かせてくれる。
千尋もサザキも、今はただ空を飛ぶ爽快さと、お互いのぬくもりの暖かさにうっとりとしながら空の散歩を楽しむのだった。
管理人のひとりごと
やっと終わったぁ(っдT)(マテ
サザキ、やっとプロポーズできました!
仲間達と千尋ちゃんに全てが予測されていたけどね!
そんなところもサザキらしいってことで(’’)(オイ
そして千尋ちゃんが簡単に唇を奪える唯一のキャラ…(マテマテ
空なら自分らしく男らしくと思っていたサザキですが、結局のところ千尋ちゃんに持ってかれると…
少年だからね、サザキ(’’)
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