お月見
 日向の男達は大はしゃぎしていた。

 何故なら、子供みたいな性格のお頭が夜は甲板で月見をすると宣言したからだ。

 それというのも千尋が向こうの世界では秋の満月をおいしいものを食べたり飲んだりしながら愛でる風習があるという話をサザキにしたからで…

 それを聞いたサザキが絶対に自分もやると張り切ってしまったのだ。

 千尋としては楽しそうだし、仲間達も浮かれているのでまぁいいかとサザキの提案に賛成した。

 ただ一人、おいしいもの全般を作らなくてはならないカリガネには申し訳なかったけれど…

 結局、一人で料理とお菓子と酒を用意したカリガネの努力のおかげで甲板には酒盛りの準備が整った。

 他には何も見えない穏やかに凪いだ海の上。

 頭上にはまん丸なお月様と輝く星。

 風もない静かな夜だが、サザキの船の甲板には日向の男達が集って宴会は始まった。

「どうだ姫さん、こんな感じか?」

「うん、おいしいものは向こうより多いくらい。月も綺麗に出てるし。」

 そう言って千尋が楽しそうに微笑めば、サザキは心の底から嬉しそうに目を細めて立ち上がった。

「おう!野郎ども!今日は食って飲んで月見るぞ!」

『おーーっ!』

 お頭の宣言に日向の男達はいっせいに声をあげると、飲み食いをスタートさせた。

 満足げに千尋の隣に座るサザキを見つめて千尋は苦笑する。

 想像していたお月見とはちょっと違っているような気がしたから。

「ほら、姫さんも食って飲んで楽しめよ。」

「うん。」

 楽しそうに笑うサザキの横顔を見れば、ちょっとくらい想像していたお月見と違っていたってかまわない気がして、千尋はカリガネの手料理を口にした。

 千尋がおいしそうにカリガネの料理をゆっくり堪能している間にも周囲は飲めや歌えの大騒ぎになっていて、半裸で踊りだす若者まで出る始末だ。

 さすがに千尋がいるのだからとサザキに一喝されて裸踊りは中止になったが、それでも日向の男達は片手に料理、片手に酒の入った杯を持って大騒ぎになった。

「みんな楽しそうでよかった。」

「姫さんが面白い祭りを教えてくれたからな。姫さんのおかげだ。」

「お祭り、とはちょっと違うんだけど…まぁ、みんな楽しそうだからいいかな。」

「細かいことは気にすんなって。」

 そう言ってサザキも杯を一気に空にする。

「姫さんも楽しめよ!」

「うん、楽しんでるよ。」

 ご機嫌なサザキにそう答えて、千尋は次々にカリガネの料理を口に運んだ。

 みんなと違ってお酒はあまり飲めないから、千尋はどちらかというと食べること専門だ。

「サザキもあっちでみんなと騒いだら?」

「いや……。」

「私はここでお月様見てるから気にしなくてもいいよ?」

「そうじゃなくて、な……。」

 不思議そうに小首を傾げる千尋に苦笑して、サザキは千尋の頭をポンポンと軽くなでた。

 皆と飲んで騒ぐのは確かに楽しいが、千尋の隣にこうして座っている方がずっと幸せだ。

 それなのに、千尋は自分がいなくなってもいいのかと思うと少しばかり寂しくて情けなくて、サザキは「はぁ」と深い溜め息をついた。

 その間にも周りでは酔っ払った日向の男達が大騒ぎだ。

 ただ、どんどんなくなっていく料理を黙々と補充し続けるカリガネを千尋とサザキは二人とも同じように申し訳なさそうな苦笑を浮かべながら見つめていた。

 カリガネは文句一つ言わず淡々と作業しているだけに、二人はなおさら申し訳ないような気分になった。

「私、カリガネのお手伝いしてこようかなぁ。」

「あいつは一人で作業するのが好きだしなぁ。姫さんが手伝うのは嫌がると思うぜ?」

「でもなんだかとっても申し訳なくて…。」

「なぁに、心配いらねーって。」

「これじゃぁカリガネはゆっくりお月見できないし…。」

「大丈夫だって、ま、見てな。」

 そう言ってサザキがウィンクするので、千尋はおいしい料理を食べながらとりあえずはそのままにしておくことにした。

 サザキの言う通り、カリガネが手伝いを受け入れてくれるとも思えない。

 そうなると千尋にはもうやることもなくて、頭上に輝く満月を見上げた。

 船の上で揺られながら月を見上げるのは初めてで、なんだかいつもよりとても綺麗に見える。

 そのあまりの美しさに千尋が思わず微笑むのをサザキは隣で優しく見守っていた。

 サザキにとっては月よりも、隣で微笑む千尋の方がよほど美しく思えたから…





 宴会がわいわいがやがやと騒がしかったのはほんの数刻のことだった。

 力いっぱい飲んで食べて騒いでいた日向の男達は数刻後にはすっかり酔っ払って眠りこけてしまったのだ。

 幸せそうにその辺に寝転がって眠っている仲間達を見回して千尋は苦笑した。

「あーあ、みんな寝ちゃったね。」

「だから大丈夫だって言ったろ。」

「ああ、そういう意味だったんだ。確かにこれならもうカリガネがお料理追加しなくても大丈夫だね。」

 そう言って千尋はクスリと笑って、それから何かに気付いたように隣に座っているサザキの顔を見上げた。

「ん?どうした?」

「そういえば、サザキは今日、あんまり飲んでないんじゃないかなぁと思って…。」

「おう、今日は一滴も飲んでねーぜ。」

「へ、どうして?」

「どうしてって……。」

「だって、サザキがお祭り騒ぎしようって言い出したんじゃない。だから、みんなとお酒飲んで大騒ぎするんだと思ってたのに…。」

「いや、まぁ、前はそれでよかったんだが…。」

「前は?」

「お、おう、今は姫さんがいるからな。」

「私?」

「姫さん一人にして、オレが酔いつぶれちまうわけにはいかねーだろ?」

「そんなの!気にしなくてもいいのに…。」

「それにな…オレはその…なんだ……。」

「何?」

 落ち着かない様子で言いよどむサザキの顔を千尋はぐっと下から覗き込む。

 まっすぐの碧い瞳に見つめられて、サザキの顔色が一気に赤くなった。

「そ、その…姫さんと月が見たかったんだ。」

「へ?」

 顔を赤くして苦笑しながら頭をかくサザキを千尋は目を丸くして見つめた。

 お酒も大好き、仲間も大好き、おいしいものも大好き、お祭り騒ぎは何より好きなサザキが自分と月を見ることをそれより優先させてくれるとは…

 だからみんなと騒がずに、今夜はずっと隣に座っていてくれたのかと気付いて、千尋は嬉しそうに微笑んだ。

「ほ、ほら、いい月だぜ。」

 慌てて上を見上げるサザキにつられて千尋も頭上を見上げる。

 そこには本当に綺麗に輝く月が。

「中秋の名月だねぇ。」

「ちゅうしゅう?」

「うん、秋の綺麗な月って意味。サザキがお月見に賛成してくれたからステキな月が見られたね。有難う。」

 そう言ってにっこり千尋が微笑むと、サザキははっと目を丸くした。

 何か自分はおかしなことを言っただろうかと千尋が小首を傾げていると、すーっとサザキの腕が伸びてきてそのまま抱きしめられてしまった。

「さ、サザキ?」

「礼を言うのはオレの方だぜ、姫さん。姫さんがオレに月見を教えてくれたから綺麗な月を眺めて、野郎どもにも久しぶりの息抜きをさせてやれたんだ。」

 耳元で聞こえるサザキの声はいつもより低くて少しかすれていて…

 千尋は急に自分の鼓動が高鳴りだしたのを感じた。

「なぁ、姫さんはオレと一緒にいて楽しいか?」

「も、もちろん楽しいよ。どうしたの?急にそんなこと…。」

「オレは姫さんと一緒にいると、これ以上ねーってくらい楽しいんだ。というか、姫さんの側にいないと落ち着かねー。」

「サザキ…。」

「だから…つい思っちまうんだ、姫さんはオレがいなくても平気なのか?ってな。」

 耳元で聞こえる声があんまり切なくて千尋は息を呑んだ。

 こんなサザキの声は聞いたことがない。

「へ、平気じゃないけど…だって、サザキは仲間のみんなが大好きだし大切でしょう?みんなもサザキを慕ってるし、だから…その…私が独り占めにしちゃだめかなって…。」

 なんとか千尋がそういうと、千尋を抱くサザキの腕に力がこめられた。

「確かに仲間は大切だ、でもな、仲間なんかよりずっとずっと姫さんの方が大切なんだぜ?オレは。」

 耳元でそんなことを囁かれて、千尋は思わず顔を上げた。

 自分を助けるために命の危険さえかえりみなかった人だから。

 自分のことを大切に思ってくれていると知ってはいたけれど、こんなふうに言葉にされるとやっぱり少しだけ驚いて…

 サザキは腕の力を緩めると視線を上げた千尋に優しく微笑んで、そっとその額に口づけた。

「サザキ……。」

 予想もしなかったサザキの行為に千尋が真っ赤な顔でうつむくと、急にサザキがパッと千尋から離れた。

「そそそ、その、あれだ…だから、なんだ、その……。」

 あんまりサザキが慌てているので思わず千尋が視線をサザキへ戻すと、サザキは首まで真っ赤になってのけぞってあたふたと何か言おうとしている。

 でも、何を言っていいのかわからない様子で…

 千尋がこれは自分がフォローした方がいいかもと思い始めたその時、二人の間にすっと焼き菓子の乗った器が差し出された。

『カリガネ。』

 二人がぴったり同じタイミングで名を呼ぶと、カリガネは深い溜め息をついて…

「試作品だ。」

 それだけ言うとさっさと船室の方へと去って行った。

 突然の出来事にしばらく呆然としていた千尋とサザキは、やがて視線を交わして微笑むと、カリガネの置いていった焼き菓子を手に取った。

「まったく、あいつはどうしてこうタイミングがいいんだかな。」

「カリガネはサザキのことをよくわかってるからだよ。」

「なぁ、姫さん。」

「何?」

「これ、食い終わったら、寝る前に少しだけ空の散歩に付き合ってくれねーか?こんなに月が綺麗なんだ。姫さんと二人で飛んでおかないと後で絶対後悔する。」

「うん、喜んで。私もこんな夜空ならサザキと一緒に飛んでみたいから。」

 千尋とサザキは微笑み合って同時に焼き菓子を口に入れた。

「おいしいっ!」

「うまい!」

 同時にそう声をあげて、また笑みを交わして…

 二人はゆっくりカリガネお手製の焼き菓子を堪能してから夜空の散歩へと飛び立つのだった。








管理人のひとりごと

さ、サザキさん…
おでこが限界でした…(マテ
甘くしようっていう意思はあるんですよ、管理人にはね(’’)
つ、次こそはっ(><)
と、リベンジを誓ってみる(マテ
サザキはお調子者で仲間からも慕われてるけど、やっぱり一番大事なのは千尋ちゃん。
だってね、羽根を切るだの敵地に乗り込むだの、千尋ちゃんのためならずいぶん物騒なこと言ったりやったりしてましたしね(w
まぁ、いつも自分の想いの方が強いと焦っているサザキがたまに千尋ちゃんに想いを伝えてみましたってお話。
次はもうちょっと頑張ります(っдT)







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