
朝から船の上は騒然としていた。
というのも、サザキが所持している宝の地図の中から一枚が選ばれ、お宝を探すために移動することになったからだ。
日向の男達は甲板を走り回り、宝探しの準備に余念がなかった。
サザキも甲板の中央で常に大声で仲間達に指示を出している。
男達が右往左往している中、千尋がまぶしそうに目を細めながら甲板を歩き出した。
宝探しとなると千尋にはあまりできることがない。
その辺はサザキ達の方がいわゆるプロなのだからしかたがない。
それでも、何かできることはないかとサザキに尋ねようと千尋は陽射しの強い甲板の上で指示を出し続けるサザキへと歩み寄った。
「サザキ。」
「お、姫さん、どうした?」
「みんな忙しそうだねぇ。」
「まぁな、今回はけっこうデカイお宝だしな。」
「そうなんだ。私にも何か手伝えることない?」
「ん?姫さんの細腕じゃぁなぁ…後でカリガネとうまい飯でも作ってくれよ。」
「それだけ?」
「おう。あとは力仕事ばっかだからな。姫さんは休んでていいぜ。」
サザキにそう言ってウィンクされてしまってはもう千尋にはそれ以上仕事をくれと言うことはできなくて…
「うん、わかった。じゃぁ、お昼ごはんはカリガネとすっごくおいしいご馳走にするね。」
少しだけがっかりして、でもそんなことは顔に出さずに千尋は微笑みながらサザキに背を向けた。
そして、カリガネと昼食のメニューの相談でもしようかと歩き出して、何歩も歩かないうちにふらついた。
千尋の視界の中で甲板がぐらついて、足が甲板から離れたと思った瞬間、ふわりと背中にしっかりとしたぬくもりを感じた。
「姫さん!」
「サザキ?」
「どうした?具合、悪いのか?」
千尋を立たせてからもその小さな体を支えるために肩からは手を離さず、サザキは千尋の顔をのぞきこんだ。
すると千尋の顔は少しだけ赤くなっていて、その碧い瞳はかすかに潤んでいるような気がした。
思わずサザキが千尋の額に手を乗せれば、間違いなくそこは熱を帯びている。
「ごめんね、大丈夫だから。」
「大丈夫じゃねー!熱あるじゃねーかよ!」
「え?そう?」
「ある!」
サザキが大声で断言しても千尋はまだ信じられないという顔をしている。
「姫さんは部屋で寝ててくれ!」
「そんなにひどくないよ…。」
「寝てなきゃひどくなるだろ!」
「だ、大丈夫だってば。」
千尋が苦笑しながら歩き出そうとするのをサザキの手が引き止めた。
「サザキ?」
どうやら言うだけでは黙って休んでくれそうにはない千尋をサザキは思い切って横抱きに抱き上げた。
このまま部屋まで連行して寝台に押し込んで、眠るまで見張っていれば休まざるを得ないだろう。
「ちょっ、サザキ、大丈夫だから。サザキは宝探しの準備で忙しいでしょう?」
「はぁ?」
大好きな人に抱き上げられてそれだけで熱が急上昇しそうな千尋に、サザキは剣呑な表情を浮かべて見せた。
「姫さんが熱出してるのに、んなことするわけねーだろ。」
「へ?」
「野郎ども!一番近い港目指して出向だ!姫さんが熱出した!宝探しは後回しだ!」
「ちょっ、サザキ!」
そんな大げさなと千尋が抗議しようとしている間に、日向の男達は一瞬驚いたような顔をしてからいっせいに「おうっ!」と力強い返事をよこした。
あっという間に宝探しの準備が着岸準備へと切り替わる。
そんな部下達を見て満足げにうなずいてから、サザキはすたすたと歩き出した。
「サザキ!本当に大丈夫だってば!」
「ダメだ!姫さんに万が一のことがあっちゃ、オレは……オレはな……。」
千尋の体をしっかりと抱いて歩きながら言葉を飲み込んだサザキの顔を見上げて、千尋は黙り込んだ。
本当はこれくらい大丈夫だから宝探しを続けてと説得するつもりだった。
けれど、すぐ側にあるサザキの顔はとても真剣で、どうしてもこれ以上説得することはできなくなってしまった。
こんなに真剣で必死なサザキの顔は、あの戦いの日以来だった気がしたから。
「とにかくだ、姫さんが元気になるまでは宝探しには出かけねー。だから、姫さんはしっかり休んで、早く熱を下げちまってくれ。」
「…うん、わかった。」
千尋がおとなしくうなずく頃にはもうサザキは千尋の部屋の前までやってきていて、しっかりと千尋を寝台に寝かせると千尋が眠りにつくまでその側から離れようとはしなかった。
「サザキ?」
千尋がふと目を開けると飛び込んできたのは心配そうにしているサザキの顔だった。
部屋の中はもう薄暗くて、どうやら船は港に着いたようで部屋の中はとても静かだ。
「姫さん、具合、悪くないか?」
「うん、だいぶいいみたい。もう夕方なの?」
「夕方っつーか、もうすぐ夜だな。」
「そうなんだ…すっかり寝込んじゃったんだね…。」
「なに、一日寝てるだけでよくなるならそれに越したことはねーさ。」
そう言いながらサザキは千尋の額に手を当てた。
おとなしく千尋がされるがままになっているとサザキはふわりと優しい笑みを浮かべて見せた。
「うん、熱は下がったな。最近は長旅が多かったし、疲れがたまったんだろうってのがカリガネの予想だ。熱が下がったんなら安心だな。」
「そんなに疲れてるとは思わなかったんだけど…ごめんね、心配かけて。」
「姫さんが良くなってくれさえすればそれでいいってことよ。腹へってたらカリガネになんか病人が食えそうなもの作らせるぜ?」
「ううん、今は大丈夫。それより、サザキはずっとここにいてくれたの?」
「あ?ああ、まぁな…。」
赤い顔でうつむくサザキに千尋は笑顔を見せた。
その笑顔はいつものように明るい光が宿っているように見えて、サザキは密かに胸をなでおろした。
熱があるとわかった時はどうなることかと思ったが、どうやらこれで千尋は大丈夫らしいとわかったから。
「今は港なの?」
「ああ、仲間達はみんな陸に上がって好き放題やってるはずだ。」
「そうなんだ。私はもう大丈夫だからサザキも遊びに行っていいよ?」
「オレはいいんだ。」
「よくないよ、私のせいでずっとつまらなかったでしょう?」
「つ、つまんなくなんかねーよ。」
心配そうに見上げてくる千尋から視線を外して、サザキは頭をかいた。
「でも、サザキだって陸に上がって騒いだりしたいでしょう?」
「オレは……姫さんの側の方がずっといい…。」
「へ……。」
赤い顔でそっぽを向いているサザキの顔をじっと見つめて、千尋もすぐに顔を赤くした。
仲間達はみんな船を下りてしまっていて、部屋の中はとても静かだ。
そして陽も暮れてしまっているから少し薄暗くて…
そんな中で大好きな人と二人きり。
いつもとは違う状況を急に意識して、千尋は顎の下まで布団を引き上げた。
「オレはどんなにぎやかな場所より姫さんの隣がいいんだ。」
「サザキ…うん、私もサザキと一緒がいい。」
思い切って千尋がそう言えばサザキは驚いたような顔を見せてから、すぐに首まで赤くなってまたそっぽを向いた。
そうこうしている間にも部屋の中はどんどん暗くなっていく。
「ずいぶん暗くなってきたな、姫さんが寝ないなら灯りとってくるぜ?」
「えっと……」
「もう少し寝るか?」
「…眠くはないの…。」
「じゃぁ、灯りとってくるな。」
「サザキ。」
立ち上がろうとしたサザキは、千尋に腕を引かれて振り返った。
するとそこには赤い顔をした千尋が何か言いかけているところだった。
「ん?どうした?」
「その…灯りはいらないから…もう少しここにいて?」
恥ずかしそうにそう言う千尋に驚きながらも、サザキは上げかけた腰をもう一度下ろした。
千尋が側にいて欲しいと言っているのに離れたりするわけがない。
けれど、寝台に横たわって赤い顔をしている千尋はなんだかいつもとは違っていて、妙に愛らしくてサザキはなんだか落ち着かない。
それでもこんな愛らしい千尋を見ないのも損だとばかりに思い切ってサザキが近くで千尋を見つめると、一瞬キョトンとした顔をした千尋はすぐにゆっくり目を閉じた。
「有難う、サザキ、大好き。」
寝台の上で目を閉じてそんなことを幸せそうにつぶやかれたら、サザキでなくても黙ってなどいられないだろう。
サザキはゆっくり千尋の上にかがみこむと、薄く整った千尋の唇に優しく口づけを落とした。
一瞬の口づけの後、サザキがゆっくり顔を離すと同じ速度で千尋の目が開いた。
抗議されるのかとサザキは身構えたけれど、千尋はこれ以上ないほど幸せそうな笑みを浮かべた。
それは、まるで今一番の望みがかなったとでも言うような満足げな笑み。
そんな千尋を見てサザキは苦笑しながら頭をかいた。
どうやら自分は千尋に誘われるままに口づけを贈ったらしいと気付いたから。
そんなサザキを目に焼き付けて、今度こそ千尋はしっかりと目を閉じた。
もう少しだけ休めばきっと体もすっかり元に戻るだろう。
そうしたら今度はサザキの宝探しを手伝うのだ。
広い海原へとまた漕ぎ出す日を想いながら眠りにつく千尋の手をサザキはそっと優しく握り続けた。
管理人のひとりごと
宝探しなんかよりずっと千尋の方が大事な少年サザキの図。
もうちょっとサザキが看病している感じを書く予定だったんですが…
まぁ、千尋ちゃん、看病されるほどの病気じゃなかったってことで(’’)
サザキはお宝ハンターですが、一番の宝は千尋なので何よりも千尋最優先です!
お宝大好き少年でも、一応千尋の夫なので!(マテ
そんな二人をきっと日向の仲間達も暖かく見守っているはず。
っていうか仲間達、色々気遣いとか大変そうだ、サザキがお頭だと(’’)
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