
「神子。」
扉の開いた気配がして慌てて振り返った千尋の視界は急に真っ暗になった。
視線を上げてみればそこには優しい遠夜の笑顔。
朝の着替えを終えて窓から外の景色を眺めていた千尋は、どうやらいきなり入ってきた遠夜に抱きしめられたらしかった。
「遠夜?どうしたの?」
遠夜はなるべくいつも千尋と共にいようとするようなところはあるけれど、こんなふうに強引なことは珍しい。
千尋が小首を傾げると遠夜はまじりけのないまっすぐな笑みを浮かべた。
「神子によく似合う花が咲いた。」
「花?」
「一緒に見に行こう。」
ニコリと微笑まれて千尋は考え込んだ。
今日は一応、予定していた仕事があって、休んでしまってもいいものなのかがわからない。
「行ってくるといいですよ、千尋。そのかわり、昼までには帰ってもらえますか?遠夜。」
新たに現れた声の主は風早だ。
「わかった。」
風早にも笑顔を見せた遠夜は千尋の手を引いて歩き出す。
仕事の調整をしている従者の風早が言うのだから大丈夫だろうと、千尋の顔にも笑みが浮かんだ。
風早に見送られた二人は手をつないだまま一本の木の下へとやってきた。
それはちょうど散り際の桜の木で、木の下に立てばまるで桜の雨を全身に浴びるかのように花びらが舞い落ちてきた。
「キレイだね。」
「神子と同じ、清らかで美しい。」
「き、清らかではないかも、私は…。」
「神子は清らかで美しい。」
同じ事をもう一度言って、遠夜は愛しそうに千尋を見つめた。
千尋は視線とつないだ手の両方から熱を感じて顔を真っ赤にした。
遠夜の言葉には嘘がない。
だから遠夜は心から千尋を清らかで美しいと思っているということ。
そのことがわかるだけに千尋はどんどん顔が赤くなるのを止められない。
「神子?」
「な、なに?」
「さっきから何も言わない。神子はこの木が気に入らない?」
「ちっ、違うよ!大好き!桜大好きだよ!」
「よかった。オレも好き。神子によく似ているから。」
そう言って遠夜は千尋をふわりと抱きしめた。
優しい腕の中はとても心地良くて…
千尋はうっとりと目を閉じた。
「昼までには帰るから…。」
「うん、それまではずっとこうしてて。」
腕の中の千尋の答えに遠夜は嬉しそうに微笑んだ。
管理人のひとりごと
桜企画拍手御礼SSバージョン、遠夜編でした♪
いつもてちてちと千尋について歩く遠夜が好きではあるんですが、今回は遠夜がリード(^^)
遠夜は自然と親しんでいるので花にもきっと敏感だろうなと思います。
なので、千尋が気付く前に遠夜が桜咲いた!神子に見せないと!ってな感じになってます(w
自然と戯れるなら遠夜ほど適任者はいないと思います(^^)
プラウザを閉じてお戻りください