
船の上で風を楽しんでいた千尋は、周囲がにわかに騒がしくなり始めたことに気付いた。
こんなふうに騒がしくなるのは上陸が近い時だけだ。
そういえば千尋の目にも近づく陸地がはっきりと見えてきた。
久々の上陸だからきっとみんな楽しみにしているんだろうな、と千尋が笑みを浮かべたその時。
「姫さん。」
背後から聞こえたのはサザキの声だ。
にっこり微笑みながら千尋が振り向けば、サザキはすぐに顔を赤くした。
「上陸するの?」
「お、おう、もういい陽気だしな。上陸して花でも見ながら宴だってんでみんなはりきってな。」
「ああ、そっか、花がきれいな季節になったんだね。」
そんな話をしているうちに今まで千尋とサザキしかいなかった甲板に、ぞろぞろと日向の男達が現れた。
「姐さん!上陸したらすぐ花の宴やりましょうぜ!」
威勢のいい仲間の声に千尋が答えようとしたその時、千尋の小さな体が宙に浮いた。
「サザキ?」
ギャーギャー騒ぐ仲間達を見下ろして、サザキは千尋を抱いたまま陸へ向かって飛び始めた。
目を丸くしたのは千尋だ。
「サザキ?どうしたの?」
「あいつらに姫さん渡すと離さねーからな。今回はオレが先約だ。」
「先約って……。」
「空から花を眺めるのも悪くないぜ?」
「ああ、なるほど。
「ただ、春の空は少し寒いかもな……。」
急に心配になってサザキが速度を落とせば、千尋はサザキの首に抱きついた。
「ひ、姫さん?」
「大丈夫、こうしてれば寒くないから。」
「お、おう。」
サザキは顔を真っ赤にしながら千尋を抱く腕に力を込めた。
小さくてやわらかくて暖かいこの大切な人を少しでも楽しませたいから。
二人でいることが幸福だとお思ってほしいから。
二人がそうして抱き合って飛ぶことしばし、陸の上へとたどり着くとすぐさま山の中に咲く桜の木がぽつぽつと見え始めた。
「うわぁ、桜が咲いてる。山桜だね。」
「あれ、サクラってのか。姫さんは物知りだなぁ。」
「そんなことないよ。女の子はみんな鼻が好きだし、桜は有名だから、私のいた世界では。」
「じゃぁ、あの花の下に降りて…。」
「ううん、もうちょっとこうして飛んでいたいな。」
「いいのか?姫さんはゆっくり花、見たいんじゃねーか?」
「花も見たいけど、サザキとこうして飛んでいるのもいいなって。」
「そ、そうか、おう、そうだな。」
今まで赤かった顔を更に赤くしてサザキは高度を上げた。
すると山に咲く桜がいくつも見えて、千尋は幸せそうに微笑む。
サザキは腕の中の幸せなぬくもりを大事に抱えて、ゆっくりと春の空を飛び続けた。
管理人のひとりごと
桜企画拍手御礼SSバージョン、サザキ編でございます♪
やっぱりサザキといえば空の散歩。
ということで、千尋ちゃんと二人きりの空のお花見でした♪
ただ、管理人の居住地でこれをやるとたぶん、寒くて凍えます(’’)
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