花の下で−忍人編−
 千尋は一人、桜の木へ向かって歩いていた。

 というのも、満開の桜を共に見ないかと忍人に誘われたからだ。

 恋人同士になってからもなかなか甘い言葉をかけてくれる人ではないから、誘われたことが千尋には嬉しくてしかたがない。

 足取りも軽く千尋が待ち合わせの場所に来てみれば、そこにはもう忍人の姿があった。

 たくさんの花をつけている大振りな枝の下に立ち、熱心に花を見上げている。

 まっすぐまぶしそうに花を見上げるその姿はとても美しくて、千尋は声をかけるのも忘れて思わず見惚れてしまった。

 二本の剣を抜けばかなう者のない将軍に、美しいなどと言ったら機嫌を損ねてしまうだろうか?

 千尋がそんなことを思っていると、ゆるやかな風が吹いて花弁が舞った。

「千尋?」

 風に吹かれて我に返った忍人が千尋の気配に気付いて振り返った。

 急に視線を向けられて千尋の顔が赤く染まる。

「えっと、すみません…。」

「何を謝っている?謝るようなことをしたのか?君は。」

「いえ、その……忍人さんがステキだなって見惚れてて声をかけるの忘れちゃって…。」

「見惚れ……。」

「はい?」

「……な、なんでもない。」

 そう言って忍人が慌てて視線を外したので千尋が気になってその顔を覗き込めば、忍人の顔はほんのりと紅に染まっていた。

 この人でも照れることがあるのかと千尋が妙なところに感心しているうちに、忍人の視線は頭上の桜へ向けられた。

「見ることができたな、二人で。」

「はい。」

 どんな想いでその言葉を忍人が紡いだのかが感じられたから、千尋はただ「はい」とだけ答えた。

 ただこの一言で自分の想いも伝わったと確信できるから。

「次の桜も君と二人で見ることができるといいと、そう思う。」

「忍人さん…。」

 千尋は万感の想いを込めて愛しい人の名を呼んだ。

 武人であればこそ、明日の命さえ定かではない、そんな思いが忍人にはあるのだろう。

 そうとわかるからこそ、千尋はそっと忍人の手をとってその目を正面からまっすぐ見つめた。

「来年も一緒に見ましょう。次の年もその次の年も、毎年ずーっと一緒に見てください。」

「千尋…。」

「約束、して下さい。」

 静かだが力のある人身に圧倒されて忍人は苦笑した。

「まったく、君にはかなわないな。わかった、約束する。」

 忍人がそう言えば、千尋の顔には花よりも華やかな笑みが浮かんだ。

「約束した、その証に。」

 その言葉が千尋の耳に届いた次の瞬間、忍人は千尋の唇に自分のそれを重ねていた。





管理人のひとりごと

桜企画拍手御礼SSバージョン、忍人編でした♪
4で桜といえば忍人さん!(^−^)
ということで一番張り切ったかもしれない(w
はっきりと記憶は残っていないものの、でも二人で桜を見なくてはと強く意識していた二人。
という感じが出てるといいなぁ(’’)(マテ
これからも忍人さんは桜がらみでいくつか書いてみたいです(^^)






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