花の下で−那岐編−
「千尋。」

 急に声をかけられて千尋はハッと振り返った。

 そこに立っていたのは那岐だ。

 相変わらずの仏頂面でたつ那岐の姿に千尋は思わず苦笑した。

「相変わらずだね、那岐は。」

「はぁ?」

「いーっつも眠そうで、仏頂面だなぁと思って。」

「そういうこと言ってると見せてやらないよ?」

「へ?何?何を見せてくれるの?」

 瞳をキラキラさせて千尋が那岐を見つめれば、那岐はあきらめたように一つ溜め息をついた。

 いつも風早には千尋に甘すぎだと言っている那岐も、やっぱり千尋の瞳にはかなわない。

「千尋の好きなものだよ。」

 それだけ言って那岐はスタスタと歩き出す。

 慌てて千尋が那岐の隣に並んだ。

「私の好きなもの…なんだろう。」

「向こうでも毎年騒いでたやつ。」

「毎年?クリスマスって時期じゃないし…誕生日でもないし…。」

 千尋は那岐の隣を歩きながら「うーん」と唸りだした。

 そんな千尋の横顔を盗み見て口元をほころばせた那岐は、しばらく歩いた森の中で足を止めた。

「那岐?」

 何事かと千尋が那岐を見つめると、那岐は勾玉を手に目を閉じて何かブツブツ唱えている。

 そして次の瞬間、目を開けた那岐が千尋に微笑みかけた。

「完成。」

「へ?」

 小首を傾げる千尋の視界に薄桃色の欠片がひらりと舞った。

 千尋が驚いて辺りを見回せば、さっきまで緑の生い茂る森だったそこは一面桜の花でいっぱいだ。

 息を呑んでその風景に見惚れて、千尋はハッと那岐を見た。

「那岐が作ってくれたの?」

「まぁね、作り物にしてはまあまあだろう?」

「うん、すっごくきれい!」

 嬉しそうに花の中を歩き出す千尋を那岐も微笑を浮かべながら追いかける。

 千尋は両腕を広げて花びらを一身に受けてからくるりと那岐の方へ振り返った。

「そっか、私、毎年お花見って騒いでたもんね。」

「そういうこと。」

「有難う、那岐。」

「じゃ、俺はそろそろ昼寝するから。」

「えー。」

 非難の声をあげる千尋にはかまわずに那岐が大きな桜の木の根元に座れば、千尋がその隣に座って膝をポンポンとたたいた。

「何?」

「今日は特別、お礼に膝枕してあげる。」

 珍しい千尋の申し出に一瞬目を丸くしてから、那岐はおとなしく千尋の膝に頭を乗せて目を閉じた。

 作り物ではあるけれど、お気に入りの花の下にたたずむ千尋の笑顔は、美しく那岐の目に焼きついた。





管理人のひとりごと

桜企画拍手御礼SSバージョン、那岐編でした♪
現代での生活を知っている那岐だからこそ、お花見させてあげたいってんで鬼道で作っちゃいましたってお話。
那岐はあんなふうにつっけんどんですが、意外と千尋ちゃんのことを観察しているような気がします。
だから千尋べったり風早父さんが目に付いてしかたがないと(笑)
鬼道使える那岐なら絶対作り物でも満開の桜を千尋ちゃんにプレゼント♪
いくらめんどくさがりの那岐でもこれくらいはやります(笑)







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