花の下で−アシュヴィン編−
「アシュヴィン、早く。」

 そんなふうに愛らしく言われて、アシュヴィンの口元はほころんだ。

 前を行く妻は楽しそうで、その足取りはまるで舞を舞っているかのようだ。

 皇妃としての立場をわきまえている千尋にしては珍しく、どうしてもとリブにねだって二人そろっての休みをとった。

 いつもはそんなことを言わない千尋の「お願い」の一言はリブには最強の武器となったらしく、すぐに仕事は調整されてアシュヴィンにとってはありがたいことに今こうして二人きりで歩くことができている。

「お前にしては珍しいな、休みをねだるなど、しかもこんなに急に。」

「だって、早くしないと見れなくなっちゃうから。」

 千尋はそう言うとすぐに早足でアシュヴィンよりも先を歩いていく。

 そう、千尋はどうしてもアシュヴィンと一緒に見たいものがあるのだといって、こうしてアシュヴィンを外へ連れ出したのだ。

 アシュヴィンとしては愛しい妻と二人でいられるのなら後は何でもかまわないので、千尋の言うまま外へ出た。

 外出した方が二人きりの時間を誰にも邪魔されずにすむというのも、千尋の言うなりになった理由の一つだ。

「ほら見て、よかった、まだ散ってなかった。」

 上機嫌でアシュヴィンが千尋についていけば、そこには薄紅の花が満開の木が一本。

「ほう、見事なものだな。」

「でしょ、桜だよ。」

「桜というのか、この木は。」

「そう、私がいた向こうの世界ではこの花を見るために宴が開かれるの。私も大好きな花。」

 そう言って大振りな枝の下に立って花を見上げる千尋の方こそがまぶしくも美しく見えて、アシュヴィンはその顔に満面の笑みを浮かべながら千尋を後ろから抱きしめた。

「ちょ、アシュヴィン?」

「俺にはお前の方がよほど美しく見える。」

「お世辞言ってもなんにも出ないんだから。」

「世辞など言うものか。俺は飾り立てた言葉は嫌いだ。」

 そう言うが早いかアシュヴィンはくるりと千尋を自分の方へ向かせると、驚いている千尋に口づけた。

 長く深い口づけの間に驚きから立ち直った千尋が、力いっぱいアシュヴィンの胸を押しのけて口づけから逃れる。

「アシュヴィン!外なんだからそういうことやめて!」

「お前が美しい花を愛でるように俺は花のようなお前を愛でているだけだろう。」

「そ、そんなこと言っても許してあげないんだから。」

 顔を真っ赤にしてむくれる千尋にアシュヴィンはニヤリと笑みを漏らした。

「わかったわかった。」

「わかってない!」

 千尋が更に何か言い募ろうとしたその時、一陣の風が桜の花を舞い上げた。

 それに見惚れる千尋をアシュヴィンがすかさず腕の中へ閉じ込める。

「アシュヴィン!」

「花に包まれる俺の妃殿はまた一層俺を惑わせる。」

「ま、惑わせてない!」

「惑わせているさ。覚悟しろ、俺を惑わせたからには、な。」

 抗議しようとした千尋の言葉はアシュヴィンの唇に吸い込まれてしまった。

 風に舞う桜の花びらの中で、二人はこの後、いつものようにじゃれあいながら幸せな午後の一時を過ごすのだった。





管理人のひとりごと

桜企画拍手御礼SSバージョン、アシュヴィン編でした♪
アシュヴィンといえば白百合。
たぶん白百合の咲くところには連れて行ってくれると思いますが、そんなに花に詳しいわけじゃないと思うのです。
ということで、桜は千尋ちゃんが誘ってみました♪
まぁ、どこにいても殿下のすることはたいてい決まってますが(’’)(マテ








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