
「これは、なんだ?」
「えっと、贈り物、です…。」
忍人は机の上に並べられた数々の代物に眉根を寄せた。
贈り物、と千尋が呼んだそれらはどう見ても薬に違いない。
何よりも辺りを漂う匂いがそれを証明していた。
「どう見てもこれは薬だと思うが?」
「あ、はい、薬で、贈り物、です……。」
だんだん声が小さくなっていく千尋に忍人は溜め息をついた。
「質問を変えよう。どうして俺は君に大量の薬を贈られているんだ?」
「バレンタインだから、です…。」
「ばれん?」
「バレンタイン、です。私が育った世界にある……風習っていうかお祭りっていうか、そういう日なんです。」
「今日が、か。」
「はい。それで、バレンタインには女の子から好きな人にお菓子を贈ったりするんですけど…忍人さん甘いもの好きそうじゃないので…。」
「甘いものを贈る日なら、どうして俺は薬を贈られているんだ?」
忍人の気にかかるのはどうしても薬を贈られているという事実で、好きな人に贈り物をするという部分ではないらしい。
「だって、忍人さん、最近ちょっと咳き込んでたりして…風邪なのかなぁとか、それとも喘息とかかなぁとか…色々考えていたら心配になっちゃって…だったらいっそのこと体にいいものを贈り物にしたらいいのかなぁと……。」
そう考えてたどり着いたのが大量の薬草、というわけだ。
「あ、これは咳止めでこっちが解熱、それからこれが風邪に効く薬草で、これは栄養価が高いって風早が…。」
一生懸命目の前の薬草の効能を説明し始めた千尋の手を忍人はなるべく乱暴にならないように握った。
薬草の上を行ったりきたりする手を止められて千尋が小首を傾げる。
「これでも薬草の効能くらいは一通り心得ている。」
「そうなんですか?」
「戦の最中に怪我をする者は多いし、病にかかる者もいる。それらへの対処も俺の仕事だからな。」
「あ、そうか…。」
「だから、説明はいい。つまり、君は俺が咳をしているのを見て心配してくれた、ということなのだろう?」
「はい……でも、女の子から好きな人にあげるプレゼントにしては確かに色気がないというか…。」
「ぷれ?」
「プレゼント、贈り物のことです。風早も薬草を集めて欲しいって頼んだ時、ちょっと微妙な顔してたし…ごめんなさい。」
「どうして君が謝るんだ?」
「だって、こんなもの私からもらっても嬉しくないですよね。なんか、辛気臭いというか……だいたい、女の子が好きな人にあげるものじゃ絶対にない気がしてきました…。」
みるみるうちにどんどん沈み込んでいく千尋に忍人は溜め息をついた。
「俺は君らしいと感心したが?」
「私、らしい?」
「君はいつも仲間達の心配をしている、もちろん国のことも民のことも心配している。同じように俺のことも心配してくれたのだろう。」
「それは、はい、忍人さんが元気でいてくれることが一番嬉しいですから…。」
「そういう気遣いは君らしい。俺も君のそういうところが…その……好きだ。」
「有り難うござ……へ?」
「だから、君のそういう気遣いのできるところが好きだと言っている。」
「あ、はい。」
突然の告白に千尋が顔を赤くすると、つられたように忍人も顔を赤くして視線を逸らせた。
そうして視線は逸らせながらも握っていた千尋の手を自分の方へと引き寄せる。
千尋の体はふらりと忍人の腕の中におさまった。
「有り難う。だが、心配しなくていい。別に風邪はひいていないし、体調も悪くはない。」
「そう、なんですか?」
「ああ、たぶん、急に冷たくなった外の空気を吸い込んでむせたか何かしたのを見かけたのだろう。」
「よかったぁ。」
心の底から安心したとばかりに溜め息をつく千尋の小さな体を忍人は優しく抱きしめた。
「最近は寒くなってきたからな、君も風邪をひくといけない。」
「こ、こうしてれば温かいですね。」
「そうだな。」
それはしばらくこうしていようという二人の思いが重なった瞬間。
千尋はこの国で誰よりも頼りになる大好きな人に抱きしめられて目を閉じた。
甘いものを贈って告白するバレンタインもいいけれど、大好きな人に気に入ってもらえるならプレゼントは薬臭くてもいいかもしれない。
一人、恋人の腕の中で千尋はうっとりとそんなことを考えていた。
管理人のひとりごと
バレンタイン企画忍人さんバージョンです!
忍人さんの咳とかね、もう本能的に気になるのよ!千尋ちゃんは!(笑)
ということで、どうせ茶色いしっていうこともあってバレンタインに薬草を贈ってみました!
結果は御覧の通りです(’’)
まあ、この結果が見えていたので風早は止めなかったんだな(w
風習はどうあれ、この二人もきっと甘い一日を過ごしただろうと妄想する管理人でした!
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