探してみれば
 那岐は竹簡を放り出すと、深いため息をついて立ち上がった。

 これで今日の仕事は終わり。

 自分の分が終わったとなれば、那岐のやることは二つだけ。

 昼寝、もしくは千尋の手伝いだ。

 今日は他国からの使者の面会も入っていないはずだった。

 ということは、那岐のこれからの行動は必然的に一つに絞られる。

 那岐は自分の部屋を出ると千尋の部屋へ向かった。

 仕事なんて面倒なことはなるべくやりたくないというのが本音だ。

 それも千尋のためとなれば話は別。

 那岐は足早に千尋の部屋を訪れて、その部屋が空だと知らされた。

 千尋の部屋はもぬけの殻。

 采女の話によると、午前中に仕事を終わらせて外へ出かけたらしい。

 行先は不明。

 こんなことはまず滅多にあることではない。

 何故なら、千尋はこの国の女王だからだ。

 一国の主の行方がわからないとはどういうことか?

 那岐は眉間にシワを寄せて考え込んで、一つため息をつくと再び歩き出した。

 向かうは姫大事の従者の元。

 そう、風早の部屋だ。

 彼なら千尋の行先を知っているに違いない。

 仕事を山と抱えて半泣きになっていないとわかったのだから、あとは昼寝の時間にしてしまってもいいのだが、那岐の足は風早の部屋へと向かっていた。

 姿が見えないと落ち着かない。

 想いを通じあってからは離れていることの方が少ないくらいだ。

 だから、その姿を望んだ時に目にすることができないだけで那岐の心の中には不安とも焦りとも似た不透明な感情が淀んだ。

 ところが、那岐が訪れた風早の部屋もまたもぬけの殻。

 こちらも行き先がわからない。

 となれば…

 考えられる可能性は一つだけ。

 姫大事の従者とお姫様は連れだって周囲には行先を伏せて出かけたということだろう。

 風早が一緒にいるのならまず心配はいらない。

 あの春の陽だまりのようにのほほんとした男はああ見えてかなりの使い手だ。

 しかも千尋を守るためなら自分の命など簡単に投げ出すほどの忠誠心を持っているときている。

 そんな風早が一緒なら千尋は放っておいても大丈夫。

 理性はそういっているのに、那岐の感情は理性とは反対に千尋を探し続けることを要求した。

「めんどくさい…。」

 そうつぶやきながらも那岐の足は外へ向かって歩き出していた。

 もうすぐ天頂で輝いていた陽は傾いて、あっという間に夕暮れ時になるだろう。

 そうなる前に千尋を見つけて、膝枕くらいしてもらわなければ割に合わない。

 そんなふうに思ってしまうほど、那岐は今、千尋に心乱されていた。

 自分でコントロールできない感情は好きじゃない。

 だから一刻もこの心をなだめたくて、那岐は足を速めた。







 結局、那岐が千尋の姿を見つけ出したのは自分の部屋で、だった。

 さんざん表を探し回って、消息すらつかめなかった那岐は空が夕焼けに染まる頃に自分の部屋へ戻ってきた。

 すると、部屋の中に探し続けていた人の姿を見つけたのだ。

 千尋は那岐が部屋に入るとにっこり微笑んで「お帰りなさい」と言った。

「ずっと昼寝でもしてたの?」

「……違う。」

 無邪気に尋ねる千尋の隣にはくすくす笑っている風早が立っている。

 二人で出かけたという那岐の予想だけは当たっていたというわけだ。

「天気よかったのに、仕事が詰まってたの?」

「……違うよ。」

 見るからに不機嫌そうな那岐に千尋が小首をかしげた。

 天気が良くて仕事もなかったのに那岐が昼寝をしていないというのは珍しい。

 しかも不機嫌。

 千尋は那岐の前へと歩み寄ると、じっと正面からその顔を見つめた。

「どうかしたの?」

「別に…。」

「千尋を探していたんでしょう?」

 横から聞こえた声に千尋が目を見開いた。

 もちろん声の主は風早だ。

「何も言わずに出ましたから、きっと那岐は探し回っていたんでしょう。」

「そ、そうなの?」

 千尋の問いに那岐は答えなかった。

 返事の代わりに眉間のシワを深くしてやれば千尋の顔に悲しみが浮かんだ。

「ごめんね。今日は那岐の誕生日だから…。」

 千尋の言葉に那岐は少しだけ目を丸くした。

 今の今まで自分の誕生日などすっかり忘れていたからだ。

 もともと自分の誕生日を自分で祝うなんて気持ちが悪いとも思っている。

 けれど、千尋はどうやら祝いたいようで、うるんだ瞳で見つめられた那岐は降参とばかりにため息をついた。

「で、千尋はまたプレゼントでも探しに行ってたわけ?」

「うん、そうなの。ごめんね、那岐に心配させたんじゃ本末転倒だよね。」

「そろそろ出来上がっている頃ですから、俺がとってきますね。」

「あ、うん、お願い。」

 苦笑しながら立ち去る風早を見送って、千尋はうつむいた。

 せっかく那岐の誕生日を大好きなもので祝ってあげようと思ったのに、これでは台無しだ。

 驚かせて喜んでほしかったけれど、そんな行動は全て裏目に出てしまった。

 もじもじしている千尋を前に、那岐は深いため息をついた。

「けっこうあちこち探したけどどこにもいなかった。どこに行ってたのさ。」

「えっと…森の中、とか?」

「森?」

「そう。」

「僕に花束でも贈りつけるつもり?」

「まさか!そんなことしたって那岐よろこばないでしょ?」

「よろこばないだろうね。」

「それくらいわかってる。」

「じゃあ、何してたのさ、森で。」

「那岐の大好きなものが今ならいっぱい生えてるって風早が教えてくれたからとりに行ってたの。」

 楽しそうに語る千尋を見つめながら、那岐は自分の好きなものでこの季節、森の中に自生しているものを脳内検索にかけた。

 答えは簡単。

 きのこ、だ。

 答えに行きついて那岐は深いため息をついた。

「きのこ狩りに行ってたってわけか。」

「うん!でね、帰ってきて風早に手伝ってもらっちゃったけど、たくさんきのこ料理作っておいたの。」

「なるほどね。」

「煮物が完成したころだから、風早が持ってきてくれたら一緒に食べようね。」

 楽しくてしかたがない様子の千尋を見てしまっては小言の一つも言いたかったのになかなか言えそうにない。

 那岐は髪をかきまわして大きく息を吸い込んだ。

「那岐?」

「あのさ、千尋。」

「なに?」

「次からはそういうことする時は僕を呼んでくれない?」

「でも、自分の誕生日プレゼントを自分で取りに行くなんておかしいでしょ?」

「そうじゃなくて、僕は千尋と一緒にいたかったんだよ。」

「へ…。」

「それに、あいつと二人で行ったんだろ?」

「あいつって…うん、風早ね。」

「千尋、忘れてない?あいつも一応、男だってこと。」

 あきれたように那岐がそう言えば、千尋は一瞬キョトンとしてからクスクスと笑いだした。

「やだ、那岐ってば風早にやきもち?」

「何かおかしい?」

「おかしいよ、だって、風早は…。」

 千尋がそこまで言った時、視界が急に暗くなった。

 見上げれば真剣な表情の那岐がすぐ目の前まで迫っている。

 驚いて一歩後ろへさがろうとして、がしっと腕をつかまれた。

「言っただろ、あいつだって一応は男だってさ。」

「そ、そうだけど…。」

「じゃあ、次からは僕を呼ぶこと、いい?」

「その方が那岐は嬉しいってこと?」

 そんなこと確認しなくたってわかっているはず。

 だから那岐は言葉で答えてなどやらなかった。

 ただ、その通りだという返事の代わりに軽い口づけを贈る。

 唇が離れて千尋が顔を真っ赤にしている間に、風早がきのこ料理を運んできた。

 顔を真っ赤にする千尋を見て、部屋の中で何が起こっていたのかを悟っても風早はただ苦笑しただけだった。

 おいしそうな料理の香りに満たされた部屋で、この後、那岐は風早を追い出し、まんまと千尋と二人きりの夕食にありついたのだった。








管理人のひとりごと

久々に那岐を書いたのでキャラが崩れていなきゃいいんですが…
那岐、誕生日おめでとう(^^)
というお話でした。
プレゼントっていったらやっぱ好きなものでしょう。
那岐の好きなものって…資料集見たらきのこって(’’)
きのこの話そういやあったあった、と、思い出した管理人。
そういえばうちじゃあんまり書いてなかったなと。
王道かもしれませんが、今年は那岐に好物をプレゼントでした♪









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