
「はぁ」と溜め息をついて千尋は座ったまま伸びをした。
目の前には苦笑する風早がいる。
朝から仕事を詰め込んで、冗談を言う暇さえないほど懸命に仕事をしていた千尋だ。
そろそろ疲れが出てきても不思議ではない。
千尋が深く息を吸い込んでゆっくり吐いて、ほっと一息つくのを見て、風早はさっとお茶の入った器を差し出した。
「どうぞ。」
「有難う。」
風早から渡されたお茶をゆっくり一口飲み下して、千尋は苦笑した。
「ダメだねぇ、まだまだ仕事は残ってるのに。」
「いえ、残っているといっても急ぎの物はありませんよ。千尋は朝からよく頑張ってますから、少し休んだ方がいいですね。」
「そんなことないよ、柊とか道臣さんとか、もっとたくさん働いてくれてる人もいっぱいいるし。」
「柊はともかく、他のものも確かに懸命に働いていはいますが、だからこそ千尋は休まないと。」
「どうして?みんなが頑張ってるんだから私だって…。」
「違いますよ。王が休んでくれなければ、下で働いているものはもっと休めないじゃないですか。」
「あ…。」
「王が働きすぎるのはあまりいいことではありませんよ。」
「そう、かな……。」
言われてみれば確かに風早の言うとおりのような気もして…
千尋は風早の言うとおり休むべきだろうか?と考えながら窓の外を眺めてみた。
外は綺麗に晴れ渡っていて、とても気持ちよさそうだ。
「ああ、よく晴れてますね。」
「うん、忍人さんとか凄く訓練張り切ってそう。」
「いえ、忍人はたぶん雨が降っていた方が張り切りますよ。雨や嵐といった状況でこそ訓練が必要だとか言いそうです。」
「ああ、そうかも。」
千尋は風早と二人で笑みをこぼす。
こんな何気ない会話一つでどうやら気分はすっかり軽くなったようだ。
「こういう天気のいい日にうまく休む方法を知っている人間が一人いるって気付いてますか?千尋。」
「へ?誰?」
「那岐ですよ。」
微笑みながら風早が口にした名前を聞いて、千尋はクスッと笑みを漏らした。
那岐の名前を聞いただけで、木漏れ日の中で昼寝をしている姿が目に浮かぶ。
「確かにそうかも。那岐ならきっとすーっごく気持ちのいいところで昼寝してそう。」
「那岐は少しサボりすぎですが、千尋はもう少し那岐を見習った方がいいですよ。せっかくですから今日これから見習ってきたらどうです?」
「ん〜。」
少しだけ考えて、窓の外の景色を眺めて、千尋は決めた。
疲れては仕事の効率も悪いし、ずっと自分に付き合ってくれている風早にも休みをあげたい。
それに道臣や柊、忍人達にも。
「じゃぁ、思い切って今日はもうオフにしようかな。風早も休んでね?それと、道臣さんと忍人さんにも休んでもらってね?」
「わかりました。」
「柊もだよ?」
「わかりました。」
柊だけ別に念を押す千尋を風早は微笑で送り出した。
向こうの世界にいる時は家族として、クラスメイトとして、常に側にいられたのに、こちらで千尋が王になってからはそうもいかない。
これで少しは二人でゆっくりできるだろう。
そう思ってほっとしながらも、風早の胸には一抹の寂しさが残って、その顔には苦笑が浮かんだ。
深い緑。
地面には小さな名もない花が咲いている。
そこは風早に教えてもらった場所。
宮から少し離れたところにある森の中。
その中に少し分け入ったところに小さな池があって、そのほとりに大きな木が一本生えている。
そこにいけばきっと那岐が昼寝をしている。
風早にそう教わっていた千尋はゆっくりと音をたてないように大木へと近づいた。
ところが…
「あれ、いない……。」
大木の根元で木漏れ日を浴びて昼寝をしているだろうと予想していた那岐の姿はそこにはなくて…
千尋はあちこちキョロキョロと見回した。
木漏れ日にちらちらと輝く池の水面が綺麗な他は特に目に付くもののない平和な森の中だ。
小鳥の囀りも気持ちいい。
でも、ここに会いたかった人の姿は見えなくて、千尋は一つ大きな溜め息をついた。
散歩をしてもいいし昼寝もいい。
とにかくせっかくの休みなのだから那岐と二人でと思っていただけに、その姿が見つけられなかったのはがっかりだ。
千尋は池のほとりに立ってまた深い溜め息をついた。
「いつもはこの辺でゴロゴロしてるくせに、今日にかぎっていないなんて…。」
そう一人でつぶやいて千尋が石を拾って池へ投げると、ぽちゃんという音が木々の間に響いた。
そして次の瞬間。
「誰がいつもゴロゴロしてるって?」
不機嫌そうなそれでいてあきれているような声が聞こえて、千尋は慌てて辺りを見回した。
さっきも一度注意深く見回したのにその姿はどこにも見えなかった。
今もどこにも姿は見えないのに声だけが聞こえた気がする。
しかも、探している本人、那岐の声が。
千尋は幻聴だったのかと疑いながらもキョロキョロト辺りを見回し続けた。
「いつまでキョロキョロしてんのさ?その辺にいないなら普通は上だって気付かない?」
「へ?上?」
声に導かれるように千尋が視線を上へ上げると、木の枝の上に仏頂面の那岐がいた。
「な、何してるの!そんなところで!」
「決まってるだろう、昼寝だよ。」
「あ、危ないじゃない!」
「危なくなんかないよ、千尋じゃあるまいし、落ちたりしない。」
「わ、私だって落ちない…じゃなくて!そんなところで昼寝なんて…。」
「で、何しに来たの?」
「何しにって……それは、今日はちょっと休みにしようってことになって…それで…せっかくだから那岐と散歩とかしようかなと思って探しに…。」
もごもごと言い淀む千尋を見下ろして、那岐は小さく溜め息をついた。
「まったく、ホントあいつは千尋に甘いんだ。」
「あいつって!風早は私の心配してくれてるだけ!」
「それに散歩なんてしないよ?めんどくさい。」
「……。」
心の底からめんどくさそうにそう言われて、さすがの千尋も何も言えなくなってしまった。
そう、那岐がせっかく昼寝できる場所と時間を確保したのにそれを放棄するわけがない。
これはもう一人で宮に帰って風早とおしゃべりでもしていた方がいいかもしれない。
そんなことまで考えて悲しくなって千尋がうつむけば、ガサリと音がして千尋の前に那岐が着地した。
「うわっ、びっくりするじゃない!」
「一緒に昼寝ってことなら付き合わないこともないけど?」
「へ?」
思いがけない那岐の言葉に、千尋は思わず聞き返す。
「木の上で昼寝なんかしたら、千尋は寝てる間に地面へまっさかさまだろう?だから、地面で昼寝なら付き合うって言ってるんだよ。」
「……落ちないってば…。」
もごもごと口の中でそう言う千尋を無視して、那岐はその場に座ると大木の幹に寄りかかった。
「で?寝るの?寝ないの?」
「ね、寝る!」
こんなところで寝ると宣言するのもどうかと思いながらも、那岐と久々に二人で過ごせる休日が嬉しくて、千尋は那岐の隣に座った。
木陰はとても気持ちがよくて、これならすぐに眠れそうだ。
「那岐。」
「なに?」
「那岐と二人だと、昼寝もなんだか楽しいね。」
「何それ。」
「だって楽しいんだもん。」
そう言って微笑む千尋の顔を間近に見て、那岐はうっすらと顔を赤く染めるとすぐに木の幹に寄りかかったまま目を閉じた。
どうやらこのまま眠る気らしい。
千尋はそんな那岐の顔を見て満足したように微笑むと、那岐と同じように木の幹に寄りかかって目を閉じた。
木漏れ日がポカポカと暖かくて、木陰は適度に涼しくて…
隣には大好きな人のぬくもりがある。
そんな心地良さと普段の仕事の疲れとが重なって…
あっという間に千尋が寝息をたて始めれば、その隣で那岐が目を開けた。
こくりこくりと船を漕ぎ始めた千尋を見て一つため息をつくと、那岐はそっと千尋の肩を抱き寄せる。
眠りを妨げたりしないように。
久々の休みを心地良い眠りで過ごせるように。
那岐はそれからしばらく千尋の肩を抱き続けるのだった。
管理人のひとりごと
那岐まだ2本目かΣ( ̄ロ ̄lll)
と驚きつつ2本目完成でございます。
基本、管理人は風早父さんのファンなので(’’)(マテ
ツンデレで書くつもりだったんですが…ツンで終わった気がする…(コラ
書きなれないキャラなんですすみません…(TT)
でも、那岐好きですよ(^^)
書きなれてないけど(っдT)
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