
千尋は辺りをキョロキョロと見回しながら歩いている。
最初は宮の中を歩いていたのだけれど、宮の中のどこにも姿が見当たらなかったから表へ出てきたのだ。
結局、歩きに歩いて三輪山まで来てしまった。
供を連れないでこんなところまできたらきっとまた忍人さんに怒られる。
そんなことを思いながらも千尋が歩みを止められないのは探している人を見つけられないでいるから。
「絶対近くで昼寝してると思ったのに…。」
そんなことをつぶやきながら千尋はゆっくり歩いていく。
「誰が昼寝してるって?」
「那岐!もぅ、どこにいたの!」
「この辺。」
「この辺って…。」
千尋は歩みを止めて深い溜め息をついた。
那岐は飄々とした様子で木にもたれて立っているけれど、千尋はその那岐を探して必死だったのだ。
「まったく、千尋はいつも騒がしいな。」
「誰のせいだと思っているの?」
「千尋のせいだろ。」
「違う!那岐のせい!那岐が探してもなかなか見つからないのがいけないんじゃない。」
そう言ってむくれて見せれば、今度は那岐が面倒そうに溜め息をついた。
「いつも言ってるだろう?僕のことは放っておけって。」
「それは……だって……。」
「だって、何?」
「……会いたかったんだもん。」
真っ赤な顔で千尋がそう言ってうつむけば、那岐は困ったような顔で視線をそらした。
千尋の気持ちはもうじゅうぶんわかっている。
あの苦しい戦いの中で千尋がどれほど自分を想ってくれているかはよくわかった。
だから、自分の想いも伝えなくてはと思いはするのだが、それが那岐にはなかなか難しい。
何しろ、非難していた向こうの世界での風早と3人での生活が身に染みてしまっていて、なかなか千尋との距離は詰めづらいのだ。
千尋を抱き寄せたりしようものならどこからともなく風早がやってきてやんわり保護者的な注意をされそうな、そんな気が今でもする。
那岐は「はぁ」っと深い溜め息をついた。
「那岐?」
「なんでもない。」
「那岐はこんな所で何してたの?てっきりいつもみたいに宮のどこかで昼寝してると思ってたのに。」
「昼寝してられりゃ良かったんだけどね。ちょっとたりなくなったから常緑樹を探してたんだ。この辺にはなかなか見当たらなくて手間取ってた。」
「常緑樹って、鬼道に使う?」
「そう、千尋でも覚えてたんだ。」
「覚えてるよ!前にも手伝ったことあるじゃない!」
「とにかく、その常緑樹の枝を探してるんだけど…。」
「確かにこの辺はみんな広葉樹だね。」
千尋は辺りを見回してそういった。
そう、今立っている辺りは広葉樹ばかりで常緑樹は見当たらないのだ。
「だから、もう少し奥まで行ってみようかと思ってたところへ千尋の声が聞こえてきたってわけ。」
「なら、私も一緒に行くよ。で、また手伝ってあげる。」
「いいよ、千尋には千尋の仕事があるだろう?」
「それがね、今日はもう終わったの。最近忙しすぎるから少し休んだ方がいいってみんなが言ってくれて。」
「ああ、風早辺りがまた甘やかしたんだろう?」
「違うの、今回はね、柊。」
そう言ってにっこり笑って、千尋は先に立って歩き始めた。
那岐はあきれたような溜め息をつきながらも千尋のあとを追う。
千尋の周りにいる人間達は相変わらず千尋に甘い。
風早はもちろんのこと、柊や道臣も千尋にはずいぶんと甘いのだ。
かくいう那岐も、こうして千尋の言うことにはたいてい逆らえないのだが…
「気持ちいいねぇ。」
先を行く千尋が少しペースを落として那岐の隣に並んだ。
つぶやくその声はとても楽しげだ。
「結局、千尋は僕の手伝いというよりは散歩をしに来たってわけだ。」
「違うよ。那岐に会いたかっただけ。散歩でも手伝いでも那岐と一緒にいられるならなんでもいいの。」
一瞬、目を丸くした那岐は再びあきれたような溜め息をついた。
そんなこと、こんな所で男相手にストレートに言うものじゃない。
そう注意した方がいいものかどうか…
那岐がそんなことを考えている間に千尋は那岐の腕に抱きついた。
「おい、千尋…。」
「いいじゃない、誰もいないし。こうしてればデートみたいでしょ?」
そう言って楽しそうに微笑まれては那岐もさすがにどうしても話せとは言いづらい。
だから那岐は逆にすっと顔を近づけて、まっすぐ千尋の碧い瞳を覗き込んだ。
「デート、のつもりなんだ?」
「へ、えっと、うん……。」
「ふ〜ん。」
意味ありげにそう言ってやれば千尋はあっという間にその顔を赤くする。
千尋はいつだって行動派で大胆な行動に出るくせに、それを指摘されるとすぐに照れるのだ。
そういうところは今も変わらない。
「な、何?」
「何が?」
「顔が近いよ。」
「デートなんだろう?」
「そう、だけど…ほ、ほら、常緑樹探さないと!」
慌ててそう言って、千尋は那岐の腕をぐいっと引っ張ると先に立って歩き出した。
その後ろ姿は耳も首も真っ赤だ。
積極的なんだか奥手なんだかわからない千尋にまた溜め息をついて、那岐は千尋に手を引かれるままに歩く。
いつだってこうやって前を行くのは千尋なのだ。
「でも、珍しいね、那岐が自分から鬼道の道具になるようなものを探すなんて。もう大きな戦いだってそんなに起こらないと思うけど。」
「色々面倒なことが増えたんだ。万が一にも鬼道を使うようなことがあったら、その時は目いっぱい手を抜きたいからね。」
「そういうところは那岐らしいけど……。」
心の底から面倒そうな那岐に今度は千尋が苦笑した。
あの戦いの間に見せた緊張感はどこへやら。
最近の那岐は向こうの世界にいた頃の那岐と変わらない。
そんな日常が千尋には嬉しくもあるのだが、この那岐の面倒くさがりだけは何とかならないものかとも思う。
「もうちょっと色々一生懸命にならないと、お嫁さんもらえないよ?まぁ、那岐は女の子と付き合うのも面倒なんだろうけど。」
「ふ〜ん。」
「なに?」
急に感心したような声をあげた那岐に千尋が小首を傾げた。
今の会話のどこに感心するような部分があったというのだろう。
「僕はこれでも千尋と付き合ってるつもりだけど?」
「へ?」
キョトンとする千尋に深い溜め息をついて、那岐は歩みを再開した。
人のことを面倒くさがりだの鈍感だのというわりに、千尋も自分のこととなると鈍感なのが本人にはわかっていない。
「まったく、千尋と一緒だと常緑樹なんて一生みつかりそうにないよ。」
「そ、そんなことないもん!」
慌てて那岐の後を追って隣に並ぶと、千尋は那岐の顔を覗き込んだ。
そこにはいつものものぐさな那岐の顔があるだけだ。
「なに?僕の顔に何かついてる?」
「那岐は私と付き合ってるんだ?」
「千尋は違うの?」
「違わないっ!」
慌てる千尋を見て那岐は思わず口元を緩めた。
こういう可愛らしいところはあんな大きな戦いを経験したあとでも変わらない。
「な、なに?」
一人で千尋を眺めてうっすら微笑む那岐が珍しくて、千尋は思わず顔をしかめた。
こんな那岐はあまり見たことがなくてなんだかあやしい。
「別に。」
千尋が気合を入れて那岐の答えを待っていたのにかんじんの答えはその一言。
しかも那岐はすたすたと歩き出してしまって、千尋は慌てて那岐の腕を抱くと、その隣を歩き出した。
「千尋?」
「つ、付き合ってるんだからこれくらいいいでしょ。」
真っ赤な顔でそういう千尋を見て、那岐は苦笑しながら溜め息をついた。
「まったく、ほんと、千尋はめんどくさいな。」
「那岐!」
「ほら、怒ってる間に見逃すよ。」
そう言って那岐が見つめた方へと千尋も視線を向けると、そこには一本の大きな松の木があった。
深い緑色の葉をたたえた立派な木だ。
「立派な木だねぇ。」
そう言って松の木を見上げる千尋はとても楽しそうだ。
那岐は見惚れる千尋には声をかけずに、そのまま隣で千尋を見つめていることにした。
枝を集めるのはもう少し後でいい。
今はこの静かな一時を千尋と共に堪能する那岐だった。
管理人のひとりごと
ゲームの再プレイが完了する前に書いちゃってますんで、何か違和感があったらすみません(^^;
極力、わからないことには触れない感じで書きました(’’)(オイ
那岐はああ見えてけっこう面倒見がいいんで、結局は千尋に付き合ってあげるんだろうなぁと思います。
もうちょっとぐーたらな感じの那岐も書きたいな(笑)
まったく甘くないのはこれから先、甘い那岐を書くつもりがあるからだと思ってください(’’)
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