
「パーティ、ですか?」
風早は仕事を終えて家に帰ると、いきなりクラッカーを鳴らされて面食らった。
クラッカーを鳴らしたのは千尋だ。
そしてクラッカーを鳴らして「ハッピーバースディ!」と叫んだ千尋は、そのままパーティをやろうと提案したのだ。
自分の誕生日など忘れ果てていた風早は当然のようにクラッカーから飛び出した紙テープを頭からかぶった状態でフリーズしてしまった。
「そう!パーティ!せっかくの誕生日だもん、ちゃんとやろうよ!」
「俺はそんな、パーティまでしてもらわなくてもいいですよ。ほら、招待するような友人もいませんし。」
「私と那岐が祝うの!もう料理も用意してあるし!」
そう言ってビシッと風早に指を突きつける千尋。
風早はと言えばあまりに急な展開に苦笑してしまった。
千尋のことだから内緒で祝おうと、きっと一人で色々奮闘してくれたのだろう。
那岐がそんな面倒なことを手伝うはずもないから。
「ほらっ、そんなとこに立ってないで、入って入って。」
千尋は風早の手からカバンを取り上げると、その手を引いて部屋の中へと入った。
風早はとりあえず千尋に連れられて部屋へ足を踏み入れながら、頭の上から垂れ下がる紙テープを取り払う。
「風早は毎年私の誕生日、ちゃんと色々用意して祝ってくれるでしょう?だから、今年の風早の誕生日は私がお祝いしてあげるの。」
「去年もお祝いしてもらいましたよ。ほら、肩たたき券、くれたでしょう?」
「それは、2年前の父の日だよ、誕生日じゃない!」
「そうでしたっけ。」
「そう。誕生日ってケーキを用意したりとかプレゼントとか色々本当はやりたかったんだけど、子供の私じゃなかなかできなくて…でも、もう高校生だからね!ちゃんと色々できるようになったからっ!」
千尋がそう言って張り切って風早を連れ込んだリビングには本当に盛大なパーティの準備が整っていた。
テーブルの上には色とりどりのできたての料理と飲み物。
その中央にバースディケーキ。
風早がテーブルの上の迫力に唖然としていると、千尋はどうだと言わんばかりに胸を張って見せた。
「どう?頑張ったんだから!」
「凄いですね。全部千尋一人で作ったんですか?」
「料理はね。那岐は面倒だって言って全然手伝ってくれないから。まぁ、予想してたけどね。でも、ごめんね。ケーキだけはどうしても時間が足りなくて買ってきちゃった。本当は全部作ってあげたかったんだけど…。」
「そんな、これだけ用意してもらえばじゅうぶんですよ。大変だったでしょう。」
「そうでもないの。普段作ってるものをアレンジしただけだし。風早ってば誕生日なのに職員会議で遅くなるんだもん。おかげで時間があったからけっこう色々作れちゃった。」
「有難うございます。」
「お礼は食べてからっ!さ、座って座って。私はカバンを風早の部屋に置いて、那岐を起こしてくるから!」
カバンくらいは着替えがてら自分で持っていくと言おうとした風早の言葉を千尋は受け付けてはくれなくて…
無理やり風早をソファに座らせると、千尋はそのまま風早のカバンを抱えて出て行ってしまった。
これはもう着替えもしないでスーツのまま食事に突入することになりそうだ。
そう思って苦笑しながらも、風早は心が踊るのを感じていた。
今まではその笑顔を守ることだけを考えていた小さな姫が、こんなふうに手ずから料理を作って自分の誕生日を祝ってくれるとは。
すっかり成長したものだと嬉しく思う反面、風早はどうしても苦笑してしまう。
大きくなればなるほど千尋は少しずつ遠くへ行ってしまうような気さえするから。
ネクタイを外して料理を眺めて風早が嬉しさと寂しさの入り混じった複雑な表情を浮かべていると、そこへ怒り心頭という顔の千尋が戻ってきた。
「もうっ、那岐ったら全然起きてくれないんだからっ!面倒ってどういうこと!風早の誕生日だっていうのに!」
「千尋、そんなに怒らないで。」
「だって……。」
「那岐はそういう性格ですから。自分の誕生日だって面倒だから祝わないでくれって言ってましたからね。」
「そうだけど、でも…。」
「俺は千尋が祝ってくれるだけでじゅうぶんですからそんなに怒らないで下さい。千尋が怒っている方が俺は悲しいから。」
「そ、そうか!そうだよね!うん、せっかくの誕生日だもん、楽しくやらないとね!」
風早の言葉で一気に機嫌を回復した千尋は、ここぞとばかりに気合を入れてガッツポーズを決めると、風早のグラスにジュースを注いだ。
この家では風早が唯一の大人で、もちろんお酒も飲んでいいはずなのだけれど、同居人二人が未成年だからと言う理由でこの家にはアルコールの類が一切ない。
だから、今回もジュースで飲み物は統一されていた。
「さぁ、食べて食べて!張り切って作ったんだから!って、まずは乾杯ね!」
「はい。」
「風早、お誕生日おめでとう!」
チンとグラスを鳴らして乾杯して、二人は同時にオレンジジュースを口にした。
どちらの顔にも笑みが絶えない。
「さ、たくさん食べてね。那岐になんか残しておいてあげないんだから!」
「食べきれないと思いますけどね。でも、せっかく千尋が作ってくれましたから、力の限り食べさせてもらいます。」
そう言って風早は箸を手にすると料理を次々に口へと運んだ。
一つ一つの料理にちゃんと感想をいいながら。
千尋が用意した料理の量はそうとうなもので、もちろん二人きりでたべきれるはずもなく…
力いっぱい食べると宣言した風早は、普段の何倍も料理を平らげたけれどそれでもなくなることはなくて、途中でこれは無理だねと苦笑した千尋が止めに入ることになった。
適当に料理を片付けてバースディケーキを切り分けて、千尋がいれたおいしい紅茶と共にケーキを食べてしまえばパーティは終わり。
さすがに今までハイテンションだった千尋もいくらか落ち着いて、二人はケーキと紅茶を前にゆっくりとくつろぎ始めた。
「どう?おいしかった?」
「もちろん、どれもとてもおいしかったですよ。」
「よかった。」
「こんなに祝ってもらえて、俺は幸せ者です。」
「ふふ〜ん、これで終わりじゃないんだからね。」
ケーキをぱくりと口に入れて千尋は楽しそうに微笑んだ。
ケーキを食べてしまえばパーティは終わり、そう思っていた風早が小首を傾げる。
千尋が腕によりをかけて作った豪華な料理。
そして気遣い。
今までにない最高の誕生日になった。
これ以上、何があるというのだろう?
「誕生日プレゼントもちゃんと用意してあるの。ちょっと待っててね。」
千尋はそう言うと、食べかけのケーキを放り出して部屋を飛び出した。
ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえたから、2階の自分の部屋へ向かったのだろう。
風早は突然の出来事にまた目を丸くして、ケーキの一欠けをさしたフォークを手にしたまま凍りついてしまった。
プレゼント?
千尋が自分にプレゼント。
いったいどんなものが贈られるのか想像もつかない。
風早が目をぱちくりと瞬きしながら呆然としていると、そこへ綺麗にラッピングされた包みを持った千尋が戻ってきた。
「はい、風早。」
「有難うございます。開けてみていいですか?」
「もちろん!」
驚きながらも風早が渡したプレゼントの包みを開いていくのを千尋はわくわくしながら見つめた。
風早は長い指で綺麗に結ばれた青いリボンをほどくと、包み紙を丁寧に開いた。
すると中から出てきたのは…
「これは、もしかして手編みのマフラー、ですか?」
「そう、頑張って編んでみたの。」
そう言って千尋は風早の手からマフラーを取り上げるとそれを風早の首にふわりと巻きつけた。
色は青一色だけれど、編みこみの柄の入ったそのマフラーはふわふわとしていてとても心地がよくて、風早はその端を手に乗せて微笑んだ。
「どう?あったかい?」
「ええ、とても。」
「よかった。これから寒くなるでしょ。風早は帰りが遅くなると凄く寒いだろうと思って。」
「とても暖かいですよ。有難うございます。これで今年は風邪知らずです。」
「それはちょっと大袈裟だけど。」
千尋はそう言いながらもとても嬉しそうに微笑んだ。
風早のために編んだそのマフラーは季節外れの夏の間から千尋が熱心に毛糸を選んで、悪戦苦闘しながら編んだものだった。
編み物をしたのは初めてではないけれど、どうしても風早に似合うように仕上げたくて柄を入れたりしたものだから編みあがるまでにはかなりの時間がかかった。
それでも風早が嬉しそうにしてくれるなら苦労したかいがあるというものだ。
「千尋。」
「何?」
「本当に嬉しいです。有難うございます。」
「風早……また、来年もこうやって一緒に祝おうね。今度は頑張ってセーター編んであげるから。」
「……はい、楽しみにしてます。」
風早は楽しそうに微笑む千尋にそう答えて、マフラーの端を軽く握った。
来年も、再来年も、ずっとこんなふうに共に過ごせたら…
そう思わずにはいられなかった。
管理人のひとりごと
風早さんお誕生日おめでとうございます\(^^)/ゲーム前現代バージョンでした♪
風早ED後とチビ千尋バージョンを書いた後で急遽、どうしても書きたくなってしまったため短時間で書いております(’’)
まだ、豊葦原へ行く前なのでほのぼのした感じで。
これから大変なことになると予感している風早です。
でもまぁ、風早ED方面へ向かうと思えば、この先もきっと幸せですね♪
何はともあれ、風早さん、お誕生日おめでとうございます(^−^)
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