
千尋は窓から外を眺めながら溜め息をついた。
外は大雨。
洪水でも起きるのではないだろうか?と思うほどの大雨だ。
風はないから民の住居にはあまり影響なさそうだが、それでも千尋としてはちょっと心配だ。
「千尋?何を見てるんですか?」
「雨。」
「はい?」
「雨を見てるの。」
「雨、ですか。」
千尋のためにお茶をいれて運んできた風早はそれを部屋の隅へ置いて千尋の隣に立った。
そこから窓の外を眺めれば、確かに大粒の雨が降っている。
「千尋は雨が好きでしたっけ?」
「ううん、そうじゃなくて、こんな大雨、みんな大丈夫かなぁと思って。」
「ああ、大丈夫だと思いますよ。王の命を受けた柊の発案でその手の対策もしてあるはずです。」
「え、そうなの?」
「ええ、だから千尋はそんなに心配しなくてもいいですよ。確か、忍人と布都彦で何か不都合が起きてはいないか近場は見回りもすると言っていましたし、那岐が何やら災害時の連絡網の確立とかやってましたし。」
「那岐までそんなことしてくれてたんだ。」
「ああ見えて、那岐は文句を言いながらも仕事はちゃんとするんですよ。」
「そっか、じゃぁ、大丈夫かな。」
やっと千尋の顔にいつもの微笑みが戻って、風早もいつものやわらかな笑みを浮かべた。
「風早は?」
「はい?」
「雨、好き?嫌い?」
「そうですね…風のない雨は好きですかね。」
「へぇ、どうして?」
「なんというか、しっとりしていて落ち着いていて、みんな家の中に入りますから外は静かですし。」
「そういわれてみればそうかも。風が強いと嵐になって恐いけど、確かに風のない雨は静かで落ち着いてるかもね。」
「雨は大地に恵をもたらす大切なものでもありますしね。」
「そうだねぇ。」
千尋は隣に立つ風早の横顔を見上げて、それからまた窓の外へと視線を向けた。
風早にそう言われてみると雨の日もなんだか悪い気はしなくて、千尋の顔には笑みが絶えない。
「あとは…。」
「何?」
「雨が降ると少し肌寒い気がしませんか?」
「うん、確かに。」
「そこが好きですね。」
「へ?なんで?」
と千尋が尋ねるのと同時に、風早は千尋の背後へ回ってその小さな体を腕の中に閉じ込めてしまった。
「風早?」
「こうして千尋を温めてあげられるので。」
「……。」
とても嬉しそうな声が頭上から降ってきて、千尋は顔を真っ赤にした。
幼い頃はよく風早に抱き上げてもらったし、戦いの最中にもかばってもらったり倒れそうになるところを抱きとめてもらったりしてきた。
その頃はもちろんなんとも思っていなかったけれど、想いが通じて、いわゆる恋人同士みたいな関係になってからはこうして抱きしめられるだけで千尋はもうドキドキしてしまう。
それなのに、それがわかっているのかいないのか、風早は簡単にこうして千尋を抱きしめてくるのだ。
しかも、とても嬉しそうに。
ドキドキして緊張してるのが自分だけで、千尋は少し納得がいかない。
仮にも恋人ならもうちょっと一緒にドキドキしてもらいたい。
そう思って考えて、千尋は風早の腕の中でくるりと体を反転させると思いっきり風早に抱きついた。
これならきっと風早もびっくりしてドキドキしてくれるに違いない。
ところが…
「千尋…。」
とても愛しそうにそう名を呼ばれて、千尋はそのままギュッときつく風早に抱きしめられてしまった。
声からするとこれはもう明らかに風早は喜んでいる。
千尋は慌てて風早から体を離すとその顔を見上げた。
そこにあったのは心からの優しい笑顔。
「珍しいですね、千尋から抱きついてくるなんて。」
「そ、それは…まぁ…その…なんていうか…。」
いつもにこやかな風早だが、今はより一層深く微笑んでいる気がして、千尋は顔を真っ赤にした。
その笑顔はいつもよりもずっと優しく見えて…
「俺は嬉しいですよ、千尋に甘えてもらえるのは。」
「あ、甘える?」
「あれ、違いましたか?」
甘える、は少しだけ意味が違うような気がして、千尋の表情が翳った。
それじゃぁまるで子供の頃、風早とちょっと離れて寂しくなって再会して安心してしがみついた時と同じ感じだ。
それって、子供扱い?
千尋は心の中でそうつぶやいてむっつりと不機嫌そうな顔をすると上目遣いに風早を睨んだ。
「甘えたわけじゃないよ、私もうそんなに子供じゃないし。」
「じゃぁ、今のはなんだったんでしょう?」
「へ?」
キョトンとして千尋が見上げるとそこには風早の何やらわくわくしているような笑顔。
甘えたわけじゃないと言った手前、もう子供の頃のように無邪気に抱きついただけということはできない。
もちろん、そんなつもりで抱きついたのでもないし…
千尋は一瞬のうちに色々考えて、そして真っ赤な顔のまま上目遣いで口を開いた。
「き、決まってる、大好き、だから……。」
「嬉しいです。」
顔から火が出るんじゃないかというくらい恥ずかしい思いをしながら本心を言ってみれば、風早はさらりと心からの喜びを口にして、言葉以上にその笑顔でどれほど自分が喜んでいるのかを千尋に伝えた。
見れば見るほど風早の笑顔は優しくて、そんな風早の笑顔を見上げる千尋は風早に聞こえるんじゃないかというほど胸の鼓動が高鳴って…
窓の外は大粒の雨が降っていて、その雨音が響いているからどんなに千尋の心臓が大きな音をたてても聞こえるはずなどないのに、風早にはその心臓の鼓動さえ伝わってしまっている気がして…
千尋は顔が上気するのを止められない。
するとなんの前触れもなく風早の顔がすっと近づいてきて、千尋がそれに気づくより早く唇に優しい暖かさを感じた。
でもそれは一瞬のことで、流れるような動きで離れた風早の顔はやっぱり微笑を浮かべていて…
「かか、風早?」
「もう子供じゃない千尋が大好きと抱きついてくれたので。」
風早にそう言われて千尋はやっと自分が何をされたのかを完全に飲み込んだ。
「い、いきなりする?普通…は、初めての人を相手に……私が初めてだって知ってるくせに…。」
「じゃぁ、これからしますけどいいですか?って聞いた方がよかったですか?」
「……よくない…。」
言われてみればもっともな話で、これからキスしますよと断ってする人ってたぶんいない…
千尋はニコニコと微笑む風早を上目遣いに見上げながら更に顔を赤くした。
宣言してからキスする人はいないだろうけど、それにしてもあんまりにも急じゃないだろうか?
でも、じゃぁ、どうすればよかったのかと聞かれたりしたら答えられるはずもなく…
千尋は何も言えずどうすることもできないまま風早の顔をじっと見つめた。
すると、風早はいつものように微笑んでいるのだけれど、どこかいつもと違うような気がして…
よくよく風早の笑顔を見つめてみれば、その目がとても深く微笑んでいることに気づいた。
いつも風早は千尋に優しく微笑みかけてくれる。
その笑顔にどれだけ勇気付けられたか、どれだけ慰められたか、どれだけ救われたか知れない。
でも、今、千尋の目の前にある笑顔は顔が笑っているだけではなくて、その瞳の奥底までがとても優しく深く笑っているように思えて…
千尋はそんなふうに風早を微笑ませたのが自分であることが嬉しくて、いつの間にかその顔に笑みを浮かべていた。
「風早は本当に優しく笑うよね。」
「そうですか?自分ではあまり意識してないんですが…大切な人と一緒にいられるからですかね。」
そう言って風早は笑みを深くする。
そんな風早のことが愛しくて、千尋はまたギュッと風早に抱きついた。
「そういう風早が大好き。」
「ん〜…。」
「へ、何?どうかした?」
風早が何故かうめき声をあげたので千尋は慌てて体を離すと風早の顔を見上げた。
するとそこには風早の困ったような苦笑が…
「苦しかった?」
「いえ、その…そんなふうにしてもらうと、俺も千尋が好きなんで…。」
「ん?」
「怒られたくないんで。」
「へ?」
「もう一回してもいいですか?」
「……。」
風早の言葉の意味をたっぷり10秒考えて、千尋は顔を真っ赤にするとまた風早に抱きついた。
「だから!きかなくていいってば!」
そう言って風早の胸に顔をうずめれば、一度ギュッと抱きしめてくれた風早に顔を上げられてさっきより少しだけ長く口づけられた。
「じゃぁ、次からはきかないことにします。」
唇を離した風早はそう言ってやっぱりとても幸せそうに微笑んでいて…
その笑顔は千尋に嬉しさや幸せや安らぎや、千尋がほしいと思っている色々なものを与えてくれた。
だから千尋は何も言わずに、今自分がどれほど幸せかを風早の体を抱きしめることで伝える。
すると風早も優しく抱き返してくれて…
二人は雨音のする薄暗い部屋で、長いこととても幸せそうに抱き合っていた。
管理人のひとりごと
風早さん、絶対作戦ですね!(爆)
幼少期から千尋ちゃんの面倒をみている風早さんなら唇を奪うなんてのはお手のものですね!(マテ
あんなにぼへっといつも笑ってますけど実は風早はけっこう策士なんじゃないかというのが管理人の妄想(’’)
でも、千尋ちゃんになら本気の笑顔を見せるのですよ!
いやもう、ほんとに風早にはいつも笑っていてほしいので、もうこの人大丈夫か?ってくらい笑ってますな、うちの風早…
最初に見せられるEDがあんなだっただけにもう、幸せになってくれ!エネルギーが絶えませんよ、管理人(’’;)
てなわけで、きっとこれからも風早は笑い続けるに違いない!(マテ
と、思うしだいです(’’)
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