
風早は布都彦に弓を習って構えている千尋を少し離れたところから微笑を浮かべて見つめていた。
的を作ってそれに向かって一心に弓を引く千尋はまるで戦女神のように気高く美しい。
そう思えば風早の笑みが深くなる。
「風早、何をしているのだ?」
「忍人、千尋が弓の練習をしているんですよ。」
風早に促されてみてみればなるほど確かに千尋が弓を引いている。
だが、布都彦がちゃんと指導をしているではないか。
「で、お前はどうしてここでそれを眺めているんだ?布都彦が指導しているように俺には見えるが?」
「ええ、布都彦はいい師になるでしょう、心配はしてませんよ。」
「話の通じない奴だ、だから、布都彦はいい師で心配していないというのにどうしてこんなところでじっと王の弓の修行を眺めているのかと聞いている。」
「ああ、いえ、姿勢もよく、きりりとしていて立派になったなと。」
「ほぅ、つまり王の成長を見ていたということか。」
「まぁ、そんなところです。」
「政務も滞りなく、文字もよく学んでおいでです。我が君は立派な王であられる。」
いきなり姿を現してそう口を挟んだのは柊だ。
その柊の言葉に風早が満足そうな笑みを浮かべる。
「文武に秀でているのは良いことだ。王として文官からも武官からも尊敬を得ることができるだろうからな。」
「神子は、料理もできる。」
「そうなのか?」
「この前、オレに握り飯というものを作ってくれた。」
「ほぅ。」
今度はどこからともなくやってきた遠夜の言葉に忍人はただ感心してうなずいた。
「自分の部屋の掃除も神子は自分でできる。」
「それは…王としては必要ない技能だな…というか、王自らそのようなことをしていては威厳が損なわれる。」
「王としてはそうかもしれませんが、千尋が育った世界ではそういうことはできないといけませんでしたから。」
風早の言葉に3人の視線がいっせいに風早へ向けられた。
姫が育った世界、それは風早と那岐が二人きりで千尋を守り続けていた異世界を指す。
そこでの話はいまだに他の面々にはよく理解できないことが多い。
「千尋はここ、中つ国では元二ノ姫で現在は王ですから、王の心得が必要ですが、向こうの世界では女子高生でしたからね。女子高生として必要な技能というのは全く違うんですよ。」
「じょしこうせい?」
「ああ、そうですね、こちらでいうと…師について様々なことを学ぶ門弟に近いでしょうか。あちらの世界では学校というところに師が何人もいて、その師について学問を修めるんです。千尋はその門弟だったんですよ。」
小首を傾げた遠夜にそう説明して、風早の視線は千尋へと戻された。
「あっちにいる時は家事一切はできるようになりましたし、勉強も、決して成績が悪くはなかったですしね。高校生になってからはおしゃれにも気を使うようになって、すっかりステキな淑女でした。」
そう語る風早の視線はずっと千尋に釘付けで…
顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。
「それだけ向こうの世界でできてこちらでも弓に政務にとなんでもこなしてしまわれる、さすがは我が君…。」
「努力は認める。実際、実力もついてきているしな。」
「神子はあらゆる命に優しい、土蜘蛛にも優しかった。」
3人の言葉にうんうんとうなずきながら風早はやはり千尋から目を離さない。
すると、弓の稽古を終えた千尋が布都彦と共に微笑む風早の元へと戻ってきた。
「なんの話をしてたの?4人ともなんか楽しそう。」
「千尋が立派だという話を。」
「もぅ、風早はいっつもそうやって私を甘やかすんだから。」
「甘やかしてませんよ、みんなだって同意してくれていたところです。」
「甘やかしてるよ。私なんてまだまだできないことがたくさんあって、みんなに凄く助けてもらっちゃってるし…。」
そう言ってはぁと溜め息をつく千尋にその場の誰もが微笑せずにはいられない。
「陛下はよくやっておいでです。」
「忍人さん…その陛下っていうの本当にやめてください…。」
「いえ、忍人が褒めているのですから真実ですよ、我が君。忍人は私より無骨ですが、私などよりはよほど真実の言葉のみを紡ぐ者です。」
「柊だってちゃんと本当のことを言ってくれてるじゃない、私には。」
「恐れ入ります。」
にっこり微笑む千尋に柊は胸に手を当てて一礼する。
「神子はどんなものの声も逃さない。全てに優しい。」
「そ、そんなことはないよ!頑張ってるつもりではあるけど。」
遠夜の言葉こそ本当に真実だけを語っているように聞こえて、思わず千尋が顔を赤くする。
そんな様子もやはり風早はニコニコと満足げな笑みを浮かべて見つめるばかりだ。
「料理ができて掃除ができて弓ができて戦場では先頭に立って、政務ができてみんなに優しい王様、ねぇ。」
今度は那岐が姿を現した。
その顔はいつも通り不機嫌そうだ。
「千尋は裁縫もできますよ。」
何気にそんなことを付け加える風早の笑顔を見て那岐は深い溜め息をついた。
「みんな、一つ忘れてることがあるんだけどね。」
「何を忘れてるっていうの?」
「その、料理とか掃除とか裁縫もできるんだっけ?それってさ、みんなこのニコニコオヤジが千尋に教えたんだよね。」
「ニコニコオヤジって…那岐、風早はまだオヤジじゃないよ。」
千尋は慌てて苦笑しながらそう訂正したが、当の本人の風早はそんなこと気にもしていないらしく、やっぱりニコニコしたままだ。
「やけに満足そうに笑ってると思わないの?みんなさ。」
那岐にそういわれて一同の視線は風早に集中した。
見つめられた風早はというと千尋を見つめて微笑んだままだ。
「那岐…何が言いたいの?」
「千尋、光源氏計画って知ってる?」
「那岐!何言ってるの!」
千尋だけが顔を真っ赤にして怒ったが、他の面々は那岐が何を言ったのかわからずにキョトンとしている。
ただ、風早だけは参ったなと言いそうな苦笑を浮かべていた。
「料理ができて掃除ができて裁縫ができて、戦場では先頭に立って戦えて下々の者にまで気配りができて、王になったらなったで最大限に努力する。これってもう完璧なお姫様だよね。」
「そ、そんなこと…。」
「でもさ、ただのお姫様なら料理掃除裁縫ができる必要はない。」
真っ赤になって黙り込む千尋。
それに対して柊、忍人、遠夜、布都彦は那岐の言葉にうなずいた。
「でも、風早は千尋に料理と掃除と裁縫を教えたわけ。それはどうしてか?」
「それはほら、やっぱりお嫁に行くときにそれくらいできないと千尋が苦労すると思ったんで。」
「王族が嫁に行く時にそんなものできなくたって苦労なんかしないだろ?」
「それは…ほら、向こうの世界での話ですよ。」
慌てて言い繕う風早はだが、どうも分が悪そうだ。
「違うね。僕達はいつか千尋が二ノ姫としてここへ戻ることになるだろうって薄々わかってたわけだし。料理と掃除と裁縫ができて戦場では弓を引いて戦えて、国に戻れば下々の者を思うことのできる立派な姫、これってさ、絶対風早にとっての完璧なお姫様だよね。」
「あははは、そこまで考えてたわけじゃないんですが。」
「ずっと疑問だったんだ、あんたがついてるのになんで千尋に家事なんか教えてるのかって。今になってその理由がよーくわかったよ。」
言いたいことだけ言って那岐はさっさとどこかへ言ってしまい、残った面々はいっせいに風早を見つめた。
「風早…今、那岐が話してたこと、本当?」
「まぁ、当たらずとも遠からずというか…。」
そう言って苦笑する風早を見て、まず忍人と柊があきれた溜め息をついてこの場を去った。
「か、風早殿の教育は間違ってはいらっしゃらないと思いますが…我らが王はこうしてご立派な王になられたわけですし…。」
「神子は神子だ。」
布都彦と遠夜はそう言って顔を真っ赤にしている千尋を見つめた。
「わ、私は完璧なんかじゃないってば…。」
「いえ、俺のお育てした姫に間違いはありません。俺にとっては完璧な姫ですよ。」
そう言って微笑まれて、千尋は湯気が上がらんばかりに顔を赤くする。
「ところで、ひかるげんじけいかくとはなんですか?」
「そ、そこは気にしないで!聞き流して!」
慌てふためく千尋は答えてはくれなさそうで、布都彦は風早へと目を向けた。
「ああ、ええっと、そうですね、幼い少女を自分の手元に引き取って自分の好みの女性に育てることを向こうの世界ではそういうふうに言ったりするんですよ。」
『……。』
布都彦と遠夜の視線が風早に突き刺さる。
「風早っ!」
「風早殿…。」
「神子は風早の好みの女性…。」
「布都彦も遠夜も!違うからっ!」
「そうですね、俺の好みの女性っていうのはちょっと違いますね。」
「え?」
この話の流れだと自分は風早好みの女性に育て上げられたのだとばかり思っていた千尋は、思わず声をあげてしまった。
だが、風早はいつものようにニコニコと微笑んでいて…
「姫は俺の好みの女性、以上の女性になってくれましたから。」
「か、風早っ!もう知らないっ!」
とうとう千尋は真っ赤な顔で駆け出してしまい、布都彦と遠夜はそんな千尋を見送ってから再び風早へと視線を戻した。
風早はというとやっぱりその顔に楽しそうな笑みを浮かべていて…
「俺のお育てした姫に間違いはありません、うん。」
一人そうつぶやいてうなずいていた。
これにはさすがの布都彦と遠夜も顔を見合わせて溜め息をつき、黙って歩き出すのだった。
管理人のひとりごと
猛烈親バカ風早お父さんを書いてみたかったんです(’’)
あんまり親バカなもんだからみんなにあきれられる風早の図。
光源氏計画は遙か1では友雅さんの専売特許っぽい感じですが(マテ
4では風早だよなぁと。
姫様育てちゃってるし、風早ルートだとそのまま頂いちゃうわけだし(コラ
たまにはこんなのもいいかなと(^^)
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