光風霽月(こうふうせいげつ)
「風早を見なかった?」

 千尋は今日、もう何度口にしたかわからない言葉を側にいた官人に投げかけていた。

「いえ、お見かけしませんが…。」

 返ってくる答えも今日、もう何度聞いたかわからない。

 朝起きてすぐに風早の姿が見当たらないことに気づいた。

 王となった姉の手伝いの政務が詰まっていて探すことができなくて、昼になってしまった。

 昼食をとった後のちょっとした休みに風早を探してはみたけれど、そんな短い時間で見つかるはずもなく…

 そうこうしているうちに昼の休憩時間は終わってしまって、また政務に追われた。

 そしてやっと一日の政務を全て終わらせて、こうして再び風早を探してみればやはりどこにも見当たらない。

 もう丸一日たとうとしてるのに風早が姿を現さない。

 千尋は不安になって思わず駆け出した。

 橿原宮の中は全て探した。

 もうここにはいないとしか思えない。

 白龍との戦いに勝利して一度は風早のことを忘れ、そして里で再会したことで風早のことを思い出したその時、千尋は同時に風早を失った時のことも思い出した。

 だから、こんなにも風早の姿が見えないと、また失ったのではないかと思って不安になってしまう。

 千尋は泣きそうになりながら外へ駆け出そうとしたところで、探し求めていたその姿を見つけた。

「風早!」

「千尋、どうしたんですか?そんなに慌てて。」

 見つけられた当の本人はいつものようにニコニコと穏やかに微笑んでいる。

 こんなにも心配したのに風早はニコニコ微笑んでいるのがなんだか腹立たしくて、千尋は綺麗な眉を吊り上げた。

「風早を探してたんだよ!こんなところで何してるの?」

「何をしているって、これでも俺は二ノ姫付きの従者ってことになったんで。」

「だから、側にいないでこんなところで何してるの?」

「一応、ここも側だと思うんですが。」

「全然側じゃないよ!凄く探したんだから!朝からずっと!」

 そう言って千尋が泣きそうな顔で怒って見せると、ここで初めて風早は目を大きく見開いて驚いたような顔をした。

「すみません、まさかそんなに探されるとは思いませんでした。」

「探すよ!風早がいなかったら探すに決まってる!」

 涙さえ浮かべてそう言う千尋に風早はまたにっこり微笑んで見せると、泣きそうなのをこらえているらしい千尋を優しく抱きしめた。

「か、風早!人が見る!」

「すみません、朝から少し出かけていたので。」

「へ?出かけてたの?どこへ?」

「常世へです。」

「へ?」

 千尋が風早の腕から逃れてその顔を見上げるとそこにはいつものように微笑んでいる風早の優しい顔が…

「常世へ何をしに行ってきたの?」

「ああ、それについてはすぐ成果を見せられますよ。」

「成果?」

「ええ、部屋へ戻りましょう。」

「ちょっ、風早?」

 風早は千尋の腕をつかんだかと思うと、そのまますたすたと歩き出す。

 向かうは千尋の部屋だ。

 千尋は何がなんだかわからないまま、自分の部屋へ入るとすぐに風早に座っているようにと言われて、ちょこんと部屋の隅に座ったまま風早の後ろ姿を眺めるしかできない。

 その風早はというと、何を思ったか流れるような手際のよさでお茶をいれ始めた。

 そして千尋があっけにとられること数分…

「さ、どうぞ。」

「あ、有難う。」

 とりあえず礼を言って受け取ったものの、それはただのお茶。

「風早、常世へいってきた成果って?」

「ですから、どうぞ。」

「へ?」

 千尋はニコニコと微笑んでいる風早とお茶を見比べて小首を傾げる。

「まぁ、一口飲んでみて下さい。」

「え、あ、うん。」

 促されて一口飲んでみれば、それはもうなんともいえないいい香りがするお茶で、思わず千尋はにっこり微笑んだ。

「おいしい。」

「よかった。」

「このお茶は最高においしいけど、常世へ行ってきた成果と何か関係があるの?」

「ですから、そのお茶が成果です。」

「へ?」

「リブに習ってきたんですよ、お茶のいれ方を。」

「………はい?」

「ですから、おいしいお茶のいれ方をリブに習いに常世まで行ってきました。」

 ニコニコ。

「つまり、風早は朝早くから常世までわざわざお茶のいれ方を習うためだけに出向いたっていうこと?」

「はい。まぁ、リブは俺のこと全然覚えてなかったんですが、最近ちょっと親しくなりまして。」

 ニコニコ。

 そこにあるのはいつもの穏やかな笑顔。

 幼い頃からずっと見つめ続けてきた、どんな時だってふっと安心してしまう笑顔。

 でも…

「もうっ、そんなことのためだけに朝からずっと留守にするなんて!」

「あれ、怒られるところですか?ここは。」

「だって!…だって…朝から風早がいなかったから…寂しかったから……。」

 最後の方は消え入りそうな声でそう言った千尋に風早はやっぱりいつもの笑顔を浮かべて見せた。

 それだけで、千尋は今まで怒っていたことも忘れそうになってしまう。

「すみません、俺なりに努力してるつもりなんですが、寂しがらせてしまいましたか。」

「……寂しいっていうか、ちょっと恐かったの。」

「何か恐いことがあったんですか?」

「そうじゃなくて…その…また風早がいなくなっちゃったのかなって…。」

「あぁ…それはありませんから。」

 ニコッ。

「そ、それはわかってるんだけど…。」

「俺はもう人ですからね、空を駆けていなくなったり、いきなり消えたり、そういうことはありませんから。」

「わかってる、わかってるんだけど…。」

「そういうふうにいなくなることがない代わりに千尋にしてあげられることも減ってしまったんで、増やそうかと思ったんですよ。」

「何を?」

「俺が人でも千尋にしてあげられることを増やそうかと。」

「それがお茶をいれること?」

「はい。おいしいお茶は和みますし、疲れた千尋にはあったほうがいいかなと。」

 そう言ってまたニコニコと微笑む風早。

「そんなこと気にしなくてもいいのに…。」

「まぁ、そうかもしれないんですが…。」

「気にしなくてもいいから側にいて。それがダメなら、どこかへ行く時はちゃんとどこへ行くか私に教えてから行って。」

「ん〜、それなんですが…。」

「何か問題ある?」

「だって、俺が常世へ行くと言ったら絶対、千尋も行きたいと言うでしょう?」

「うっ、言うかも…。」

 だから今回は黙って出かけた。

 政務があるから出かけられない千尋に悲しい思いをさせないために。

「でも、千尋がそんなに心配するなら今度からちゃんとどこへ行くか、置き手紙くらいはしますね。」

「置き手紙、なんだ…。」

「出かけた後なら行きたいって駄々をこねることもできないでしょう?」

「うっ…そうかも…。」

 ニコニコ。

 やっぱり風早はいつものように微笑んでいて…

 ああ、この人には何もかもみんなお見通しなんだなと千尋は改めて痛感する。

 この人にはかなわない。

「じゃぁ、置き手紙で我慢する。だから、ここにいる時はもうちょっと私の側にいて?」

「それは、喜んで。」

 そう言って風早は優しく千尋を抱きしめた。

 今度は千尋も黙って風早の胸にもたれて目を閉じる。

 こんなふうに二人だけの時間が増えていくといい。

 いつも自分を守ってくれる暖かい腕の中で千尋はそう願った。








管理人のひとりごと

風早×千尋、試し書きです(笑)
とりあえず微笑む風早を書きたかったので、常に笑っててもらいました(爆)
世界観とか色々疑問はあれど、あの世界でお茶ってあったっけ?っていうところとかゲーム内でもスルーだったんで、あまり細かいことは気にしないでおくことにしました(’’)
いかがなもんでしょう?
管理人は剣の達人な保護者が好きらしいので、4は風早から(爆)
他のキャラも今回は全体的によかったんで、色々書けたらいいなぁと試行錯誤中でございます。
評判よかったら遙か4ページ増設で本格UPします(爆)




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