お見通し
「えっと……これはさすがに…どうなんだろう……。」

 千尋は風早の膝の上で赤くなりながらどうしようかと考え込んでいた。

「何がですか?」

 対して千尋を膝の上に抱えて風早は上機嫌だ。

「何がって……これは今日一日ここでこうしてろってこと?」

「そうなりますね。」

 千尋に答える風早の声は明らかにウキウキとしていて楽しそうだ。

 対して千尋は本当にこんなことでいいのだろうかと悩まずにはいられなかった。

 今日は風早の誕生日。

 だから、千尋は色々と前の日から企画していた。

 たとえば朝食を食べ終わったら風早を誘って散歩に行って、帰ってきたら手作りの軽いお昼ご飯を食べさせてあげる。

 その後は陽だまりでお昼寝、もちろん膝枕つき。

 夕方までそうして二人でごろごろ過ごしたら、豪華な夕飯を作ってあげようと思っていたのに…

 そんな千尋の計画は早朝、一瞬にして砕け散った。

 朝、もの凄く上機嫌な姉が千尋を起こしにやってきた。

 そうして千尋が寝ぼけ眼をこすっている間に姉は千尋を綺麗な衣裳に着替えさえ、アクセサリーまでつけて飾り立てると、やっと意識がはっきりしてきた千尋を伴って自分の部屋へと移動した。

 そこで千尋を待っていたのは風早と羽張彦の二人。

 千尋が目を白黒させているうちに朝食が始まり、いつもよりもずっと豪華な食事を堪能すると、どうしてこんなことになっているのかを追求する前に姉と羽張彦によって風早の部屋に放り込まれてしまった。

 何をするのかと抗議しようとした千尋に姉は人差し指をびしっとつき付けて宣言したのだ。

『今日はあなたも風早も一日お休みにします。仕事をすることはいっさい許しません。今日はここで一日ずっと二人で過ごすように。』

 千尋に抗議する間を与えず姉は扉を閉め、あろうことかその扉に閂までかけて食事は届けるから安心してと言って去ってしまった。

 唖然とした次にぷんぷんと怒り出した千尋をなだめるべく、風早は千尋を膝の上に抱き上げてそのまま寝台の端に座って今に至る。

 驚きも怒りもおさまった千尋は、今度は疑問を感じ始めた。

 せっかくの大事な恋人の誕生日にこんなことでいいのだろうか?

 それが千尋の疑問だった。

 他にももちろん疑問に思うことはあるけれど、まずは大事なこの日を恋人に楽しんでもらいたい。

 千尋は風早の横顔をじっと見つめた。

「千尋?」

「せっかくの風早の誕生日なのに、部屋の中に監禁されちゃうなんて…。」

「ああ、千尋はどこかへ出かけたかったんですか?それとも何か気になっている仕事でもありましたか?」

「ううん、違うの。風早の誕生日を楽しく過ごしてもらいたいなって思ってたから…。」

「俺はこれで十分楽しいですが…。」

「そう?」

「はい。」

 見れば風早は本当に幸せそうに微笑んでいる。

「そ、そうなんだ…。」

「はい。千尋がこうしてずっと側にいてくれるというのはとても楽しいですよ。」

「側にいるのはいつもだと思うけど……あ、そういえば、姉様、どうして今日に限ってこんなことしたんだろう?風早、何か知ってる?」

「それは、俺の誕生日なので。」

「へ?」

 千尋がキョトンとするのもかまわずに風早はニコニコと微笑み続けている。

「あれ、千尋は聞いてないんですか?」

「何を?」

「陛下が今日は俺の誕生日なので千尋を贈るから今日一日二人で好きに過ごすようにとおっしゃってくださったんですが?」

「はい?」

 幸せそうな笑顔で風早の口から語られる事実に千尋は思わず大きな声をあげていた。

 つまり、朝から綺麗な服にアクセサリーで飾られたのはプレゼントにリボンをかけている感覚だったわけだ。

 そのことに気付いて千尋は驚きの次にあきれて深い溜め息をついていた。

「千尋?」

「姉様ったらひどい。私をプレゼントにするなんて…。」

「まぁ、そうするのがいいと言い出したのは羽張彦だと思いますが。」

「そうなの?」

「はい、そういう男なので。」

 苦笑する風早に言われてみれば、こんなことを姉一人が考え出したとは確かに思えない。

 あの心優しくおしとやかな姉にしてはあまりにも豪快な所業だ。

「まぁ、確かに羽張彦さんならやりそう…。」

「俺はわかりやすい人間のようで…。」

「どういうこと?」

「つまり、俺が一番喜ぶ贈り物をと考えた時にこうなったということだと思いますよ。」

「?」

 小首を傾げる千尋に風早は苦笑した。

 羽張彦は少し無鉄砲なところはあるが、決してバカではないし、悪い男でもない。

 つまり、羽張彦は風早が一番喜ぶ贈り物をと考え、どうやったら風早が幸せを感じるかと悩んだ末に出した結論がこれだったというわけだ。

 羽張彦にとっては恋人と二人で風早が一番幸せになる方法を実行しただけのこと。

 たまたま千尋はそれに巻き込まれたに過ぎない。

「俺が一番喜ぶ贈り物が千尋と過ごす時間だということが羽張彦には簡単に想像がついたんでしょう。すみません、俺のせいでおかしなことに巻き込んでしまった。」

「おかしなことに巻き込まれたっていうわけじゃ……その……私も風早には誕生日に幸せになってもらいたいから色々考えてたんだし……これで風早が幸せで嬉しいなら私は別に文句ないんだけど…。」

「そう、なんですか?」

「うん、でも、私からのプレゼントは全然なんにもしてあげられないことになっちゃうけど……本当は色々、料理してあげようとか一緒に散歩に行こうとか、膝枕でお昼寝させてあげようとか考えてはいたんだけど…。」

「俺は千尋がこうして一緒に誕生日を過ごしてくれるだけで十分幸せですよ。」

「そっか、なら、今日はこうしてずっと一緒にここにいようかな。」

「はい。あ、それと…。」

「なに?」

「ここにいながらできることもありましたね。」

「できること?」

「膝枕はここでもできますよ。」

「あ。」

「してもらってもいいですか?」

「もちろん!」

 千尋はあわてて風早の膝から下りると寝台の端に座って膝の上をポンポンと叩いて見せた。

「どうぞ!」

「有り難うございます。」

 風早はころんと横になるとそっとその頭を千尋の膝の上に乗せた。

 かすかにやわらかくて温かい感触に思わず頬が緩む。

 そんな風早を見て、千尋もやっと嬉しそうに目を細めた。

「とっても気持ちいいです。」

「よかった。」

 窓からは日の光が差し込んで、秋も深まったとはいいながらも昼間は温かい。

 風早は満足そうな千尋の笑顔を確認して目を閉じた。

 秋のやわらかな陽射しに包まれて、愛しい人の膝を感じながら眠る。

 こんな幸せなことがあるだろうか。

 風早がそんなことを思っているその時、千尋もまた幸せな時間をくれた姉とその恋人にいつの間にか感謝していた。

 こんなふうに風早が幸せそうにしてくれるなら、少々強引な姉とその恋人の計画も悪くない。

 後でちゃんとお礼を言わないと。

 そんなことを考えながら千尋は大切な人の髪をその手で優しく撫でるのだった。








管理人のひとりごと

寒くなってくるんです!この季節は!
万年肩こりの管理人の肩はギシギシです!
背中も腰も首もです…
ということで、体中のコリと冷えと戦いながらの創作になっております!
何はともあれ、風早父さん、お誕生日おめでとうでした\(^o^)/









ブラウザを閉じてお戻りください