
暖かな陽の射す部屋。
窓から射し込む光に照らされて千尋はすやすやと眠っている。
外では小鳥のさえずる声が響いて穏やかだ。
そこへ一つの人影が現れた。
繊細な美貌には似合わない眼帯をした男。
長い髪をサラリとなびかせて男は眠っている千尋の傍らへと歩み寄り、膝をついた。
それでも千尋が目覚める気配はない。
男は眠り続ける千尋の片手をそっと持ち上げると、その手を己の両手で優しく包み込んだ。
千尋は暖かさを感じていた。
熱いのとは違う。
なんだかしっとりとしていて、優しい暖かさだ。
それは左の手から伝わって、千尋の全身を満たす光のようだった。
いつまでもその暖かさに酔っていたい気もするけれど…
何故かそのぬくもりが目を開けて欲しいと言っている気もして…
千尋はゆっくりと目を開けた。
開いた千尋の目に映ったのは優しく微笑む隻眼の美貌。
「柊?」
「おはようございます、我が君。」
優しく左の手を引かれて、千尋はゆっくりと体を起こした。
もうすっかり夜は明けていて、窓からは明るい陽の光がまぶしいくらい射し込んでいた。
「私、ひょっとして寝坊しちゃった?」
「いえ、それほどでは。」
そう答える柊の手はまだしっかりと千尋の左手を包み込んでいて…
それに気づいて千尋はにこりと微笑んだ。
「柊はいつも私を優しく起こしてくれるよね。」
「そう、でしょうか?」
「うん、そう。」
「できうることなら、我が君の眠りを遮るのではなく、夢路のお供をつとめたいと願っているのですが。」
「柊はまたそんなこと言って。」
クスッと笑って千尋は自分も両手で柊の手を包み込んだ。
「今ね、私、とってもステキな夢を見ていた気がするの。しっかり覚えているわけじゃないんだけど、なんだか暖かくて優しくて静かで、凄く気持ちが良かったの。でも、ずっとこうしていたいなって思うのに、誰かが私に目を開けてって言っている気もして…それで目を開けたら柊がいた。」
「それではまるで、私が我が君の夢路を邪魔したようですね。」
「そういうことじゃなくて、その暖かくて優しい感じはこの手から伝わってたの。」
そう言って千尋は柊の手をキュッと握った。
「だから、私が見ていた優しい夢はきっと柊が見せてくれてたんだよ。」
「我が君…。」
「夢路のお供ができて嬉しい?」
自分を覗き込む碧い瞳に翻弄されて、柊は思わず目を見開いた。
この主ときたら、いつも自分を翻弄してやまないのだ。
「できればもう少々長くお供できればよかったのですが…。」
「それは簡単。」
「?」
千尋は寝床から立ち上がって柊の手を引いて歩き出す。
柊は手を引かれるまま外へ出た。
「お供ならこれからたくさんさせてあげるから。」
にっこり微笑む千尋は柊の手を引いて歩き続ける。
柊は一瞬驚いてからすぐにその顔に笑みを浮かべた。
これが忍人辺りならば自覚がないと言って外出を止めるかもしれないが、自分はそんな柄じゃない。
全ては我が君の御意のままに。
「どこへいらっしゃるおつもりですか?」
「ん〜、どこでも。柊と一緒に行けるところならどこでもいいかな。柊はどこか行きたいところはないの?」
そう問われて少しだけ考えて。
柊は少しだけ歩く足を速めて主の隣に並んだ。
「我が君の隣に。」
「そんなのいつもいるところじゃない。」
「我が君の隣に置いて頂ければ、それだけで私の知らない未来へ連れて行って頂けますので。」
「それなら任せて!」
千尋はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
未来は全て定められたもの。
たとえ何かが変化したとしてもそれは瑣末なことだけだと思っていた。
そんな柊の未来の全てを変えてしまった人。
だからこんなふうに微笑まれて、柊の胸は静かに凪ぐのだ。
既定伝承に従い続けたこれまでの時の中では得られなかった、それは安らぎとでも言おうか。
柊が与えられた安らぎを満喫していると、千尋ははたと足を止めて握っていた柊の手を両手で包み込むようにして視線を上げた。
「どこへでも連れて行ってあげる。柊がまだ見たことのない世界や見たことのない歴史を見せてあげる、いくらでも。だから、ずっと一緒にいてね?」
「我が君…。」
少しだけ真剣な眼差しで釘を刺されて、柊は苦笑した。
これはもう本当にこの主から逃れることなどできそうにない。
もちろん、こうして自分の見たことのない既定伝承の先へと連れてきてくれた主から逃れるつもりもないのだが。
「我が君が私をこの未来へ連れてきて下さった時に誓い申し上げたはずです。私の忠誠も命も、心も、全て我が君のものと。」
「うん。」
愛らしくうなずいて千尋は両手で包み込んでいる柊の手を持ち上げると、その指先にちゅっと軽く口づけた。
そしてそのまま目を閉じて、静かにたたずむ。
「我が君?」
「伝わってる?」
呼ばれて千尋が目を開くと、その碧い瞳はきらきらと柊の視線を反射する。
碧い瞳に映る自分を見つめて、それから柊は微笑を浮かべてうなずいた。
「はい。」
ただそうとだけ答えて柊は自分の手を包む主の手に口づけた。
それは確かに伝わっているという証。
二度と離れないという約束。
二度と離れずにすむ未来を自分に与えてくれたことへの感謝。
千尋は再び柊の手を引いて歩き出す。
柊はただ主の隣を歩くだけ。
ただそれだけのことが今は愛しい。
それはこれまでに見たことのない未来だから。
だからこうしてこのままどこまでもこの主と共に行こう。
それがどんな未来であったとしても。
柊は千尋の手から伝わるぬくもりを感じながらその顔に優しい笑みを浮かべていた。
管理人のひとりごと
1では頼あかしか書かなかった管理人ですが、4は色々やろうと思います(笑)
ということで、お試しUP第二弾、柊編です(^^)
うちの柊あんまりしゃべらないなぁ(’’)と思いつつ…
歴史を変えてまで一緒になった二人なので、幸せだぞっていうのを書きたかったのです。
もうちょっと幸せでもいいかな(’’)
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