
アシュヴィンは自分の部屋の中を行ったり来たり、もう何度目かわからない往復を繰り返しながら考え込んでいる。
傍らには苦笑しているリブ一人。
アシュヴィンの眉間にはシワさえ寄っていて、機嫌が悪いことは一目瞭然だ。
「陛下、少し落ち着いては…。」
「もとはと言えばリブ、お前のせいでこうなっているんだぞ!」
「や、そうでしたか…。」
「のんきなものだ。お前が千尋と二人で外で茶など楽しんでいるからこんなことになっているんだぞ。」
リブはアシュヴィンの言い分に何も言わずにただ苦笑するしかない。
千尋と二人でお茶の一時を楽しんだのは事実だが、それは千尋が茶をいれてほしいと頼んできたからだ。
一人で飲んでもつまらないから二人でと誘ってくれたのは千尋の方で、そこへたまたま時間のできたアシュヴィンがやってきたものだから事が大きくなってしまった。
つまりは、自分が忙しくしている間にリブが千尋と二人きりの一時を楽しんでいたことにアシュヴィンが妬いたというわけだ。
しかも、千尋に嫌味を言ってしまったものだから、そこからはお決まりの大喧嘩に発展し…
ただ謝ったくらいではとてもじゃないが許してもらえないような状態に、今、アシュヴィンはイラついていた。
「お前にも責任の一端はあるんだぞ。少しは妃殿のご機嫌をとる方法を考えろ。」
そう言われても、リブは千尋を怒らせたことがないからどうすればいいかと言われても見当がつかない。
リブが困った顔で溜め息をついている間に、アシュヴィンは立ち止まると髪をかき回して呻き声をあげ始めた。
これは自分がこっそり千尋を訪ねて許してくれるように頼むしかないかとリブが覚悟を決めかけたその時…
「アシュヴィン、いる?」
思いがけないその声は、少しだけ開いた扉から顔を出した千尋のものだ。
慌てて振り返ったアシュヴィンは扉へ駆け寄ると、すぐに千尋を中へ招き入れた。
「どうした?てっきり怒って部屋にこもっているかと思ったが…。」
「そ、それはそうだったんだけど……でも、さっきお茶を飲んでいたら、綺麗に花の咲いている桜の木をみつけたんだもの…。」
「それを知らせに来たのか?」
「そうじゃなくて……その…アシュヴィンに時間があるなら、花の下で二人でお茶が飲みたかったから……。」
顔を赤くしてうつむきながらそう言う千尋に一瞬目を丸くしたアシュヴィンはすぐに満面の笑みを浮かべると千尋の体をすっと抱き上げた。
「ちょっ、アシュヴィン?」
「時間ならいくらでも作る。その桜の木とやらの所へ行くぞ。リブ、茶を持ってこい。」
「や、すぐに。」
「アシュヴィン!歩けるから!」
必死になってアシュヴィンに抗議する千尋の声はすぐに小さく遠くなっていくのを聞きながら、リブはすぐにお茶の支度を始めた。
いつだってアシュヴィンは千尋にはかなわないけれど、今日は特に千尋の大勝といっていいだろう。
あんなにいらだつアシュヴィンを一瞬で上機嫌にできるのは世界中にただ一人、千尋しかいない。
リブは今頃、溶けそうな笑顔で千尋を抱きかかえているであろう主を思って笑みを浮かべた。
管理人のひとりごと
喧嘩と和解がここの夫婦の日常なので(’’)
花見もすんなりとはできません!
今回は千尋ちゃんが折れてあげましたよ、だっていつまでも怒っていたら花が散ってしまうからね、というお話。
殿下はいつまでも千尋ちゃんの扱いを学習しないといいと思う(’’)
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