
「もう二度としないって言ってるんだから許してあげて?」
「ダメだ。」
似たような言い合いをもう数十分も繰り返している千尋とアシュヴィンは決して喧嘩をしているわけではない。
いや、普段ならこのまま言い合いをしている間に喧嘩になるのだけれど…
今回ばかりは千尋が怒りにくい状況なので、なんとかけんかにならずに済んでいた。
そもそも、二人がこんな言い合いをしているのはアシュヴィンが千尋のために出した一つの命令が原因だった。
その命令とは、皇、つまりアシュヴィンに対してどんな理由があろうとも、決して女性を差し出さないこと。
この命に反して女性を差し出した者は厳罰に処する。
アシュヴィンとしては千尋に不必要な心配をさせないために大真面目で出した命令だったのだが、冗談だと受け取った者もいた。
結果どうなったかというと、自分の娘を是非とニヤニヤしながら献上してきた貴族が発生した。
するとアシュヴィンは有言実行。
その貴族から位を剥奪し、国外追放を言い渡してしまったのだ。
慌てたのは処罰された貴族だけではなかった。
前代未聞の事件に国中が大騒ぎになったといってもいい。
リブまでがどうにかならないものかと千尋に泣きつく始末だった。
もちろん千尋がこの状況を放っておけるはずはなくて、こうして今、アシュヴィンに抗議をしている最中というわけだ。
「そもそも、俺は厳罰に処すと言い渡してあるんだ。撤回する気はないし、その必要があるとも思えん。」
「でも、アシュヴィンが断ればいいだけの話でしょう?それなのに厳罰っていうのが…。」
「いちいち断る時間がもったいない。それに、他国からの使者や貴族達に面会するたびにお前に気をもませたくない。」
「気をもんだりなんか……。」
「しないか?」
「うっ……。」
千尋が言葉につまって顔を赤くすると、アシュヴィンはそんな千尋を見て目を細めた。
皇であるからというだけではなく、アシュヴィンはとにかく女性に人気だ。
あしらいがうまいし、常にどうどうとしていて男らしい。
そういうアシュヴィンだから女性に人気があるのはしかたがないことだとわかってはいるのだけれど、千尋はどうしてもそれを笑って見ているができない。
そんな千尋の胸の内を知っていればこそ、アシュヴィンは今回の命令を徹底させようとしたのだ。
それがわかっているだけに千尋も強く出ることができない。
千尋がどうしようもなくなってもじもじしていると、アシュヴィンはそんな千尋の髪を優しく撫でた。
「わかったわかった。お前がそこまで言うなら今回だけは見逃すことにしよう。奥方殿から特別に許して欲しいと嘆願があったと吹聴してな。」
「そ、それはしなくてもいいから!」
「いいや、それくらいはしないと俺の気がすまん。それと…。」
「それと?」
「妻の望みをかなえた夫には何か礼があっていいと思うが?」
「へ…。」
ニヤッと笑って見せるアシュヴィンに顔を真っ赤にしながらも千尋は思い切ってその唇に口づけた。
軽い口づけでも顔を離してみればアシュヴィンが目を丸くしている。
珍しいアシュヴィンの顔を見て、千尋はニッコリ微笑んだ。
願いをかなえてくれた大好きな人にこれならじゅうぶんなお礼になったはず。
そんなことを思って微笑んでいた千尋はあっという間にアシュヴィンの腕に抱きしめられた。
その腕からは幸せが伝わってくるようで、千尋はうっとり目を閉じた。
管理人のひとりごと
アシュヴィンは優良物件なので(笑)我も我もと寄ってくるわけです。
父親も娘連れてね(’’)
そのたびに千尋に妬かれて喧嘩になったんじゃたまらないんで殿下は思い切りましたというお話。
千尋ちゃんは強引な旦那様のおかげで、どっちに転んでも苦労が絶えません(^^;
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