夏バテ
「アシュヴィン?どうしたの?」

 いきなりフラリと姿を見せたアシュヴィンに千尋は目を丸くした。

 本来ならこの時間は兵士達の訓練を視察しているはず。

 それなのにアシュヴィンはいつもの衣装を脱いで、胸の辺りを開けただらしない格好で千尋の部屋へと入ってきたのだった。

「どうしたのとは御挨拶だな。」

 とりあえずというように悪態をつくアシュヴィンの声がどことなく弱々しい気がして、千尋はアシュヴィンへと駆け寄った。

「具合、悪いの?」

「いや、ただ、だるい。」

「それを具合悪いっていうんじゃ…。」

「いや、それほどでもない。リブが言うには暑さと忙しさにやられたらしい。」

「じゃあ、休んだ方が…。」

「ああ、だからここに来た。」

「へ?」

 アシュヴィンはニヤリと笑みを浮かべると、千尋がいつも使っている寝台の上へ転がった。

「アシュヴィン?」

「看病してくれ。」

「病気じゃないんでしょう?」

「お前が側にいればすぐによくなる。」

「そ、それは都合がよすぎ…。」

「嘘じゃないぞ。本当によくなる。」

 寝台のかたわらに立った千尋の手を取って、アシュヴィンはじっとその顔を見つめた。

 想いのこもった視線はあっという間に千尋の顔を赤くする。

「た、ただの夏バテなんだから涼しくして寝た方が…。」

「なんだ?それは。」

「暑さにやられたんだから涼しくして寝た方がいいって言ってるの。私が一緒だと暑いでしょ?」

「それは暑いとは言わないんだぜ?」

「へ?」

「温かいと言うんだ。」

 言葉と同時にアシュヴィンは千尋の手を引いた。

 小さな悲鳴と共に千尋の体がアシュヴィンの上へと倒れ込む。

 その体を受け止めて抱きしめて、アシュヴィンは満足そうに微笑んだ。

「こんなことしたら暑いってば…。」

「温かいんだと言っただろう?」

「もぅ…。」

「調子が悪い時くらい付き合え。」

「じゃあ、一眠りして起きたらちゃんと一緒にご飯を食べてくれる?」

 その一言は自分の体を想ってのことだと気付いて、アシュヴィンは笑みを深くした。

 そして千尋の髪に優しく口づけるとあっさりと首を縦に振った。

「わかった。約束する。」

 耳元でそう囁いてアシュヴィンは目を閉じた。

 陽に照らされた熱とは違う、穏やかで温かな温もりを抱きしめてアシュヴィンの意識は次第に霞んで行った。







管理人のひとりごと

さすがの殿下も暑さと過労で倒れましたっていうお話。
どんなに暑くても千尋ちゃんは離しません!(笑)
そしてもしかすると殿下のことだから仮病かもしれない!
とか妄想して頂けるとより一層お楽しみ頂けるかもしれません(’’)