
風早は目の前で黙々と仕事をこなす千尋を見つめていた。
窓の外は強い陽射しに照らされてまぶしいほどだ。
当然のことながら室内もかなりの気温で、さきほどから千尋も額の汗をぬぐいながらの仕事になっていた。
剣の稽古をしろと言われるよりはまだましだろうが、机にかじりついて仕事をするのもかなりきつい気温だった。
もし、これが以前暮らしていたあの平和な世界だったら…
風早はそれを考えると今のこの状況を何とかできないものかと考え込んでしまった。
あの世界なら、気温は自由にできた。
冷たい食べ物や飲み物だって手に入った。
けれど、ここではそれはみんな不可能だ。
せめて休みを取らせたいと思っても、王族として姉を支えている千尋にはなかなかまとまった休みを取る余裕もなかった。
「風早?」
「はい?」
「考え事?」
千尋に心配そうにのぞきこまれて風早は苦笑した。
これでは本末転倒だ。
自分が千尋に心配をかけていたのではお話にならない。
「ええ、最近暑いなと思っていたんです。」
「そうだね。確かに暑いかも。」
千尋も同意しながら苦笑した。
どんなに強がって頑張ってみても暑さはどうにでもなるというものではない。
「千尋は体調とか大丈夫ですか?」
「え、あ、うん、大丈夫。ご飯もおいしく食べてるし。」
「夜眠れなかったりしませんか?」
「うん、それも大丈夫……かな。」
「大丈夫じゃなさそうです。」
「えっと、暑いからじゃなくて……。」
急に顔を赤くしてうつむいた千尋にくすっと笑みをこぼして、風早は立ち上がった。
今のところ夜は離れて過ごさなくてはならない。
この状況はまだまだ続きそうだ。
寝苦しいほどの夜の暑さよりも自分と共にいられないことを想って眠れないと言ってくれる恋人に歩み寄った風早は、その手をとって立ち上がらせた。
「風早?」
「長い夏休みはとれませんが、これから少し涼みに行きましょう。」
「涼みに?」
「はい、水辺なら少しは涼しいですよ、それに、足をつけるくらいならできるでしょうし。」
言うが早いかキョトンとしている千尋を連れて風早は歩き出した。
千尋は毎日王族としてよく頑張っている。
だから、せめて今日は二人きりで一時の涼を。
いや、本当は自分が千尋と二人きりの一時を過ごしたいのだと心の中で思い直して風早は苦笑した。
そんな風早の本心を知ってか知らずか、千尋は隣でいつのまにか楽しそうに微笑んでくれている。
風早は千尋の手を握る手にかすかに力を込めて歩き続けた。
きっと千尋も同じ想いでいてくれる。
自分と二人で過ごす一時を楽しみにしてくれているに違いない。
握った手から伝わる温もりに幸せを感じながら、二人は微笑みを交わし、照りつける太陽の下へと出て行った。
管理人のひとりごと
拍手御礼夏バージョンってことで(笑)
風早はいつも千尋ちゃんに快適な環境で過ごしてほしいと思ってますが、さすがに難しい感じです。
風早にとっては千尋はまだまだ高校生な感覚なので、夏休みを過ごさせてあげたいなとか考えてしまうわけですね。
もとが先生だし(’’)
なので、ちょっと短くなっちゃいますが、夏休みをプレゼントってお話。