
千尋はなんだかとても暗くて悲しい場所にいる気がした。
どうしてもその場所から早く逃れたくてしかたがなくて…
だから千尋はゆっくりと重い瞼を持ち上げた。
ところが…
目を開けた刹那、その蒼い目に飛び込んできたのは穏やかに微笑む隻眼だった。
さらりと長い髪を流して自分を見下ろすその優しい隻眼に千尋は思わず微笑んで、長い髪に手をのばす。
思っていたよりずっと心地のいい絹糸のような髪に触れてから、千尋はその手を愛しい人の頬へと添えた。
「お目覚めですか?我が君。」
「そっか、私、寝てたんだ……おはよう、柊。」
「何か夢をご覧でしたか?」
「ん〜、見てた気もするけど、忘れちゃった。もしかしてうなされてた?」
「いえ、ですが、あまり心地良さそうではありませんでしたので…。」
「確かにあまりいい気分じゃなかった気がしたけど……でも、目が覚めて柊の顔を見たらそんな気分、ふっとんじゃった。」
柊は自分の頬を撫でる恋人の手の上に自分の手を重ねると、口元に笑みを灯した。
その笑みは、以前の皮肉まじりのものではなくて、心からの微笑みで…
千尋はそんな笑顔を見せてくれるようになったことが嬉しくて、もう片方の手も恋人へと伸ばした。
ところが、その手は途中で柊の手に絡め取られてしまって、そのまま横たわっていた体をくいっと起こされたかと思うとすぐに柊の腕の中に囲われてしまった。
「夢路のお供ができればよかったのですが…。」
「夢でも一緒になんて柊らしい。」
「我が君はお嫌ですか?」
「ううん、でも、私は目が覚めた時にこうしてそばにいてくれた方がいいかなぁ。そうすれば悪い夢なんて忘れてしまえるでしょう?」
腕の中から聞こえる明るい声に柊はクスッと笑みをこぼした。
「柊?」
「いえ、さすがは我が君と思いまして。」
「そう?」
「はい。」
柊は囁くように答えて、恋人を抱く腕に力を込めた。
ここは柊のよく知っていた定められた世界ではもうないけれど、それでもこの恋人さえいてくれればそれで良いと思う。
何もわからない世界であっても、いやだからこそ、この大切な人と共に在る身が誇らしい。
柊は腕の中の温もりを確かめるように抱きしめながら、今のこの時、この世界をじっくりと味わうのだった。
管理人のひとりごと
柊にとって未来がわからない世界って望んでいたものでもありながら、不安な世界でもありそうな気がしました。
だって、今までは次に何が起こるのか全てわかっていたわけだからね。
何もわからないっていうのは一番怖いんじゃないかと。
でもまぁ、千尋ちゃんと一緒なら他のことはどうでもよくなるだろうと(’’)
何しろストー○ーなみの千尋ちゃん好きですから(っДT)