
葛城忍人は自分の主でもあり恋人でもある女性の部屋の前を行ったり来たりし続けていた。
何故そんなことをしているのかと言えば、それは恋人を散歩に連れ出したいからなのだが、元来が生真面目な忍人はどうやって誘ったらよいものかと思案しているところだった。
中つ国の女王として忙しいであろうその人を誘ってもいいものだろうか?という疑問から始まり、どのような言葉で誘えばいいかに至るまでまじめな常勝将軍は考え続けていた。
しばらくそうしてうろうろしながら考えて、何かを決意したように一つうなずくと、忍人はやっと扉を叩いた。
すぐに大きな扉が開いて、千尋の笑顔が視界に入る。
その姿を認めるとすぐに中へ誘おうとする千尋に忍人は声をかけた。
「外へ出ないか?」
「はい?」
突然の言葉に千尋が目を丸くする。
これはきちんと理由を話さなくてはと忍人はコホンと一つ咳払いをした。
「菜の花が咲いていた。君は花が好きだろう。」
「はい!好きです!」
瞳を輝かせる千尋に忍人は優しい笑みを浮かべた。
「そう思った。」
「連れて行ってくれるんですか?忍人さんが。」
「そのつもりだが、不都合か?」
「すぐ支度します!」
忍人の言葉に即答した千尋はパタンと扉を閉めた。
しばらくごそごそと音がしてから再び扉が開くと、千尋はすっかり外出の支度を整えて出てきた。
「お待たせしました。」
元気にそういう千尋を伴って忍人は早速歩き始めた。
春を告げる花である菜の花が咲いている花畑まではそう遠くはない。
忙しい千尋のちょっとした気分転換になるはずだ。
「あの、忍人さん。」
表へ出てしばらくして辺りに人気がなくなった頃、その千尋の言葉は控えめに発せられた。
忍人が何事かと隣を歩く恋人の様子をうかがえば、千尋は頬を赤く染めて忍人のことを見つめていた。
「腕、組んでもいいですか?」
「もう疲れたのか?」
「違います!ちょっと憧れていて…その…恋人とそういうふうに腕を組んで歩くのとか…。」
恋人と口に出して言われると忍人の顔にも朱が射した。
そして顔を赤くしながらも忍人は腕を千尋の方へと差し出した。
恋人のかわいらしい望みをそんなことで叶えてやれるならどうということはない。
千尋は嬉しそうに忍人の腕に抱きついた。
「有り難うございます!」
忍人は腕に愛しい人の温もりを感じながら菜の花畑へ向けて歩みを再開した。
隣を歩く千尋はそれ以上何も言わなかったけれど、幸せであるということが温もりを通して伝わってきた。
管理人のひとりごと
忍人さんって押せ押せって感じじゃないでしょう。
どっちかっていうと女は苦手そうでしょう。
そういう人相手だと腕一つ組むのも大変でしょう。
っていう感じのお話です(’’)