柊は珍しく暗器を手に外へ出ていた。
辺りに人影はない。
文官として女王に仕える柊ではあるけれど、実は暗器を使っての戦闘も心得ている。
心得てはいても鍛錬しなければ腕は落ちるわけで、柊は久々にその鍛錬に出ていた。
鍛錬の合間に柊は竹簡ではなく暗器を握る自分の手を見て苦笑をこぼした。
そもそもが策士の自分はあまり他人に褒められたことばかりしてきたわけではない。
けれど、暗器などというものはそれ以上に褒められた武器ではないなと実感した。
そして次に浮かんだのは恋人の顔だった。
朗らかで明るく輝くような笑みを浮かべる人。
その笑顔の隣に自分が立つことを想像すると柊の顔に浮かんだ苦笑は深くなった。
ふさわしくない、と思う。
実際、恋人が切り開いてくれた新たな未来以外の歴史では自分は彼女の傍に在ることは許されなかったのだ。
そんなことを思っていると、急に足音が聞こえて柊は足音のする方へと視線を巡らせいた。
そこには今思っていた恋人の姿があった。
恋人、千尋は楽しそうに笑いながら駆けてくる。
柊に手さえ振っていた。
そんな千尋を迎えることのできる幸福を柊が一人胸の内で思っている間に、駆けてきた千尋はその勢いのまま柊に抱きついた。
「柊!大好き!」
「は?…。」
柊が絶句したまま瞬きするのを体を話した千尋の笑顔が見つめた。
その笑顔はどうも嬉しそうだ。
「びっくりしたでしょう?私の作戦勝ち!」
千尋にしてみればちょっとした悪戯。
けれど、その悪戯は柊には千尋が予想した以上の効果があったようで…
「これは参りました。我が君の軍師たるものこのままでは引き下がれません。」
「え?」
千尋の脳裏に嫌な予感がよぎった次の瞬間、その視界が暗くなって驚きの声は柊の唇でふさがれた。
長い長い口づけの間、千尋は思った。
やっぱりこの人には勝てないんだ、と。
そして柊も同時に胸の内でつぶやいていた。
この女性にはどうしたってかなわない、と。
管理人のひとりごと
お互いにお互いの作戦に負けたと思っている二人の図(笑)
相手が策士だといつもからかわれてはぐらかされて千尋ちゃんは大変ですよ。
でも実のところは柊もけっこう千尋ちゃんにやられてるといい(w