
千尋は珍しく二人きりの時間を楽しんでくれている恋人の横顔をまじまじと見つめた。
そこにあるのは恋人、柊の右の横顔。
よくよく考えてみれば、千尋が見るのはいつもこちら側の顔のような気がする。
何故かと言えば、必ず二人で並んで座る時は柊がいつも千尋の左隣に座るから、だ。
千尋はそのことに気付いて、すっと立ち上がると、驚く柊の反対側の隣に腰を下ろした。
「我が君?どうなさったのですか?」
「こっち側から柊を見ることってないなぁと思って。」
正直に千尋が話してみれば、柊の顔に苦笑が浮かんだ。
「こちら側は…お目汚しになります。」
「目のことを言ってるの?」
「はい。」
眼帯に覆われて見えない柊の片目。
千尋はその目のことを見苦しいと思ったことなど一度もない。
不便だろうなとは思うこともあるけれど、見たくないと思ったことなどない。
だから、柊にお目汚しと言われて、千尋は一瞬で不機嫌そうに顔を歪めた。
「もう何を見ることもない役に立たぬ物でもあります。我が君にそのようなものをお見せするのはなるべく控えたいと……。」
柊が更に言いつのろうとするのをさえぎって千尋の手が柊の眼帯の上に優しく乗せられた。
布をこえて伝わるぬくもりに柊の隻眼が大きいく見開かれる。
「物を見ることはできないかもしれないけど、この目はもっと違うものを見てくれるから。」
「違うもの…。」
「この目は人の優しさとか痛みとかそういうものを柊に見せてくれるでしょう?私はそう思うの。この目を失ったことで柊は両目で見ていたのとは違う世界を見てる、違う?」
「それは…確かに…。」
人の優しさや痛みを見ることができるという恋人の言葉は買い被りだと柊は胸の中でつぶやきながらも、確かに違う世界が見えるようにはなったと納得していた。
この片目を失う前は見えていなくてはいけないものが見えていなかった。
片目を失うことで見えるものがあったということは事実だ。
「だから、私には柊のこっちの目もすごく大切。柊も大切にしてあげて。」
まるで飼っている小動物か何かのように自分の左目の話をする恋人に、柊の苦笑は微笑へと変わった。
「承知致しました。」
自分に見えていた未来までも変えてしまった女神の言葉に素直に応じた柊は、その褒美だといわんばかりに女神の笑顔を見ることができた。
そして、その笑顔に見惚れていると、今度は眼帯の上にあったぬくもりが消え、次の瞬間、そこには女神の口づけが落とされていた。
「約束の証、ね。」
失った目の上に口づけてくれた恋人を柊は自然と抱きしめていた。
木漏れ日の下、ほんの一時の逢瀬の間に柊は片目を失ったことを天に感謝していた。
管理人のひとりごと
失った柊の目をいつくしむ千尋ちゃんという画像を思い描いて書いた一本です。
当然の事なんですが、絵画みたいに文章を書くって難しい(ノД`)
筆力のなさを実感しました…
分不相応なことはしちゃいけませんな(TT)