
すっと風を切る音がして、次の瞬間、キンと楽器の音のように美しい音が辺りに響いた。
忍人が流れるような所作で剣を振り、そして鞘へ戻したのだ
どんなに忙しくても毎日の鍛錬を怠ることのない忍人は、一部の隙もなく剣を抜き、そして鞘へ戻した。
全ての鍛錬を終えてふっと息を吐き、忍人は次に剣の手入れを始めた。
鞘からそっと抜いた剣の刃が欠けていないかを確認し、傍らに用意してあった布で丁寧に拭いていく。
最近は人を斬ったりもしていないから、刃はまるで鏡のように輝いている。
けれど、手入れを怠るような忍人ではなかった。
「忍人さん。」
優しい気配と共に聞こえたその声に、忍人は手を止めた。
振り返ればそこには案の定、千尋が立っていた。
「千尋…。」
「あの…お邪魔ですか?」
「いや…邪魔ではない。」
戸惑いながら忍人がそう答えれば、千尋は嬉しそうに微笑んで傍らに腰を下ろした。
「剣のお手入れですか?」
「ああ。使ったわけではないが、こうして手入れをしてやらねば、いざという時になまっているなどということになりかねない。」
「なるほど…じゃぁ、私も弓のお手入れした方がいいでしょうか…。」
「そうだな。たまにはしておいた方がいいだろう。だが、俺は専門ではないからな……布都彦にでも教えてもらうといい。」
「あ、はい、そうします。」
千鶴が嬉しそうにうなずいたのを見届けて、忍人は剣の手入れを再開した。
刃の曇りを確認しながら丁寧に磨き、一度軽く振って調子を確認してから鞘へ戻す。
その作業を2刀分行って、やっと忍人は小さく息を吐いた。
「忍人さんって…。」
「ん?」
「何をしている時も動きが綺麗なんですね。」
「動きが、綺麗?」
「はい。剣のお手入れしている間は戸惑うことなく手がすーって動いて、その剣を振る時はなんだか舞を舞ってるみたいでした。」
「そ、そんなにたいそうなものではないと思うが…。」
「いいえ、すっごくステキでした。」
楽しそうに微笑む千尋を正面から見つめてしまって、一瞬にして頬を赤くした忍人は突然千尋の手を取って立ち上がった。
「忍人さん?」
「専門ではないが、わからないというわけでもない。君の弓の調子を見よう。」
赤い顔のままでそう言って忍人は歩き出した。
手をひかれて千尋も後を追う。
「忍人さん…有難うございます。」
二人の時間を作ってくれたのだと気付いて、千尋はその顔一面に笑みを浮かべた。
名目は武器の手入れ、けれどそれは不敗の将軍葛城忍人にとっては逢引に違いないのだった。
管理人のひとりごと
忍人さんはデートもこんな感じで(’’)
武器の手入れは某武士もよくやってると思いますが、まぁ、武人の基本ですから(^^)
忍人さんが恋人だと千尋ちゃんも一緒にやらないと楽しい二人の時間は過ごせないという…
まぁ、この二人はデートに専念できるカップルじゃなさそうなので(^^;