
千尋は髪を整えて一つうなずくと、後ろに立つ人の方へ振り返った。
後ろに立っていたのはもちろんアシュヴィン。
今日はこれから二人で異国からの使者に会うことになっていた。
だから二人ともいつもより少しばかり堅苦しい姿をしている。
千尋は微笑を浮かべてじっと自分を見つめるアシュヴィンの姿を上から下までゆっくり眺めて、その距離を一歩つめた。
「どうした?口づけでもねだってくれるのか?」
「これから謁見だって言ってるのにそんなことするわけないでしょ。襟がおかしいから直してあげる。動かないでね。」
千尋は背伸びをしながら手を伸ばすと、少し歪んでいたアシュヴィンの襟を直した。
「はい、これで大丈夫。」
直された襟を手で触れて確かめて、アシュヴィンは優しく目を細めた。
「俺の奥方殿は気が利くな。」
「こ、これくらいたいしたことないよ…。」
上機嫌なアシュヴィンに顔を赤くして見せながら千尋は自分の今の好意を記憶の中でたどった。
これって仕事に行く前の旦那様のネクタイを直してあげる若奥さんみたい?
一人胸の中でそう考えて、千尋は真っ赤な顔でうつむいた。
するとあっという間にその視線の先が暗くなる。
「アシュヴィン!」
「少しだけ動くな。」
静かな声が頭上から降ってきて千尋は思わず黙り込んだ。
すると本当にほんの少しだけ千尋を虜にした腕の囲いはすぐに解かれて、千尋は視線を上げた。
そこにはアシュヴィンの穏やかな笑顔があって、千尋は思わず見とれた。
「まったく、俺の奥方殿は少しでも油断するとたちどころに俺を虜にして離さんのだからな。」
「そんなこと…。」
「さあ、せっかくお前が身なりを整えてくれたのだ、使者に俺が一番いい男な様を見せつけてやろう。」
相変わらず上機嫌なアシュヴィンに手を引かれて歩き出しながら、千尋の顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
「アシュヴィンはいつだっていい男だよ。」
小さくつぶやいたその声はアシュヴィンの耳にも届いて、次の瞬間、つぶやきをこぼしたその唇はアシュヴィンの唇にかすめ取られていた。
管理人のひとりごと
こっちの世界にいたら、まあ、サラリーマンのアシュヴィンのネクタイを直してたのねという想像の図です(笑)
アシュヴィン的には千尋に構ってもらえたのでご満悦(’’)
俺様な感じですが、意外と殿下もワンコっぽいところをお楽しみいただければ(マテ
ブラウザを閉じてお戻りください