覚悟
 布都彦は一人、宮の中を歩いていた。

 というのも先日、愛しい人の保護者とも言うべき風早から、たまには恋人に贈り物の一つもするべきだと力説されたからだ。

 しかも目だけ全く笑っていない恐ろしい笑顔で。

 布都彦としては愛しくて大切な千尋が贈り物一つで喜んでくれるのなら、それくらいのことすぐにでもと思ったので、実行に移してみたのだが…

 両手一杯に花を抱えて歩く布都彦の姿は宮の中で行き違う全ての人間の目を丸く見開かせることになった。

 何故両手にいっぱいの花を抱えているのかと言えば、布都彦が何を贈ろうかと悩んでいた時に柊が現れて、女性への贈り物といえば両手一杯の花だと教えてくれたからだった。

 特に千尋には碧い花が似合うと言われて、布都彦は青い花を両手一杯に抱えているというわけだ。

 人々の視線を集めながらやっとの思いで布都彦は千尋の部屋の前に立った。

 ここまでの道のりも想像以上に険しかったが、布都彦にとって最大の難関は今、目の前にある扉だといえた。

 この扉の向こうに千尋がいることはわかっているが、どんな顔をして花を渡せばいいのかがわからない。

 大量の花を抱えたまま考え込むことしばし。

 布都彦は深く息を吸い込むと、覚悟を決めて扉を見つめた。

 その時…

「布都彦、早く中へ。」

 勝手に扉が開いて布都彦は予想と違う人物の顔をドアップで見つめることになった。

 そう、風早が中から扉を開けたのだ。

 半ば引きずり込まれるような形で中に入った布都彦は、自分の方を振り返ってすぐに千尋が目を丸くするのを見ることになった。

「布都彦!どうしたの?それ。」

「これは、その…。」

「珍しい、布都彦が花を持ってるなんて。」

 自分が抱えている花などよりずっと美しい恋人の笑顔に一瞬見惚れてから、布都彦は慌てて花束を千尋の方へ差し出した。

「へ?」

「こ、これは、その……。」

「私に?」

「はい……。」

「うれしい!有難う!」

 光を放つような笑みを浮かべて千尋は花を受け取った。

 そんな千尋につられるように布都彦もやっと笑みをこぼす。

 いつの間にかそんな二人を見守っているはずの風早の姿はどこにもなくて…

 布都彦と千尋は鼻をはさんでの甘い一時を楽しむのだった。







管理人のひとりごと

布都彦っていうか…見守る風早父さんの話みたいな気がしないこともない(’’)
戦場では勇猛な布都彦ですが、恋愛事は一事が万事、全て覚悟が必要ですというお話。
布都彦はまじめだからねぇ。
どっかの不真面目軍師とは違って、プレゼント一つ渡すのも大変なのですよ!







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