
千尋は忍人を伴って陽の下を歩いている。
視察へ向かうその途中だ。
普段は風早の護衛で向かうのだけれど、たまたま忍人の体が空いていた。
そうなると風早が自ら進んで忍人に護衛の役を託したので、二人はこうして並んで歩くことになった。
千尋はもちろん大喜びなのだけれど、忍人は相変わらずの仏頂面で辺りの気配を探ることを忘れない。
それでもすっかり千尋の婚約者となった忍人は、仏頂面だろうがなんだろうか千尋と二人で並んで歩いていると周囲の人間には穏やかな笑顔で見守られるようになっていた。
「いいお天気ですね。」
「ああ、だが、いくら近隣とはいえ、もう少し兵を連れてきた方がよかったのではないか?」
辺りを見回しながら忍人がそう言うのを千尋は苦笑で流した。
それは確かに安全のことを考えればそうかもしれないけれど、せっかく二人でデートができるという状況なのにそれをしないなんて選択は千尋にはなかった。
視察といっても近隣の村を見て回るだけだし、危険だってそう大きくはないはずだ。
忍人の腕をもってその程度の危険を退けられないはずもなかった。
「私は忍人さんと二人きりになる時間ができて嬉しいんですけど、忍人さんは嬉しくないですか?」
少しだけ悪戯っぽく、試すように千尋がそう尋ねると忍人がはっと目を見開いて足を止めた。
つられるように千尋が足を止めた瞬間、コホンと忍人が一つ咳をした。
それは思わぬ質問に慌てたためにむせたという程度の咳。
けれど、千尋は何故かその咳がとても気になって、胸の内に膨らむ得体の知れない黒い不安を止められなくて忍人の顔をまじまじと見上げた。
「千尋?」
「忍人さん、寒いですか?」
「いや、特には…。」
「どこか体調が悪くないですか?」
「別段…。」
「熱とか…。」
千尋が額に手を当てようとするその手をそっととって、忍人は千尋の体を引き寄せるとそのまま優しく抱きしめた。
「忍人さん?」
「熱などない、心配はいらない。」
「はい…。」
「俺も、二人きりになるのは嬉しいと思っている。」
「へ…。」
突然の答えに千尋が目を白黒させているうちに、忍人は腕の囲いを解くと千尋の手をとって歩き出した。
二人きりで視察先までゆっくり歩く。
その時間を少しは楽しむべきなのかもしれない。
自分の体を案じてくれる恋人の想いに応えるべく、忍人はやはり身構えるのだった。
管理人のひとりごと
何故だか忍人さんの病気はとーーーっても心配って話です(笑)
咳なんてそれはもう千尋ちゃんの魂に刻まれた何かが反応します(’’)
でも、将軍にとってはまぁ「ああ、心配してくれるのか」みたいな。
やっとそういうふうに解釈できるようになってきましたというお話。
ブラウザを閉じてお戻りください