
千尋は空を眺めていた視線を隣へと移した。
何故かというとなんとなく視線を感じたから。
すると予想通り、隣に座っている恋人の隻眼がじっと自分を見つめていて、千尋は小首を傾げた。
いつも落ち着いて達観しているようなところのある人だけれど、何も言わずにこんなふうに見つめていることは珍しい。
もちろん、こんなふうに恋人と二人、午後の静かな一時を木陰で黙って過ごすというのも千尋は大歓迎だ。
けれど、何も言わずに柊がただ静かに側にいてくれるなんてなんだかちょっと違和感がある気がする。
「柊、さっきから黙ってこっちを見てるけど、私、何かおかしい?」
「いえ、そのようなことは決して………。」
千尋は更に小首を傾げる。
言葉を紡ぎだした柊が突然黙り込んで考え込むような仕草をするなんて、それこそ本当に珍しいから。
いつどんな時だってその言葉で千尋を翻弄してきた恋人だ。
戦いの最中だって軽口を叩いたり、同門の後輩である忍人をからかったりしていたのに…
「どうかしたの?なんだか今日の柊はちょっと変。」
「変といわれるのは慣れていますが…。」
そう言って柊は苦笑した。
変人だ役立たずだはよく忍人辺りが柊を評価する時に使う言葉だから確かにそうかもしれないが、千尋はまたからかわれたような気がしてぷっとふくれて見せた。
「もぅ、そういうこと言ってるんじゃないってわかってるくせに…。」
「はい…。」
まただ。
いつもならここで更なるからかいの言葉や恥ずかしいくらいの賞賛の言葉が飛び出してくるのに今日に限ってそれが止まってしまう。
「柊、本当にどうかしたの?」
「私もまだまだ未熟だと痛感しておりました。」
「どうして?私は、柊は凄く優秀だと思うけど…。」
「そのように思って頂いているとは光栄の極み。ですが、やはり私はまだまだ未熟。」
「急にそんなこと言い出すなんて何かあったの?」
「私は我が君を愛しく思っております。」
「はい?」
急にストレートに紡がれた言葉に千尋が顔を真っ赤に染め上げる。
柊からはそういう飾った言葉をたくさん贈ってもらっているけれど、こんなふうにストレートなのは珍しい。
「我が君が愛しくて愛しくて夜も眠れぬほどです。」
「えっと……。」
「ですが、この胸の想いを我が君にお伝えするだけの言の葉を私は持ち合わせておりません。そのことに今、気付きました。」
そう言って苦笑する柊に千尋は一瞬驚きながらも次の瞬間にはその首にそっと抱きついていた。
今度は柊が驚く番。
「言葉がダメならこうして伝えるといいと思う。」
「我が君…はい、ではこれからはそう致します。」
ギュッと柊に抱きつく千尋のその小さな体を柊も愛しそうに抱きしめた。
言葉はなくても想いを伝えることはできる。
それさえも自分に教えてくれる恋人だから、大切に大切に、言葉では伝えきれない想いを両腕にこめて柊はぎゅっと強く千尋の体を抱きしめた。
管理人のひとりごと
管理人は言葉の力を信じている人間ではありますが…
言葉がなくても伝わるものもまたあると思っています。
柊は口から生まれたようなイメージがあるので(マテ
まぁ、たまにはこんなふうに想いを伝える方法を千尋ちゃんに教えてもらってもいいかなと。
これ、短編は口づけでやった気がするな(’’)
かぶってるよ!と思った人がいたらスルーでお願いします(っдT)
今回はどちらかというと恥ずかしくストレートに柊に語ってほしかったんです(’’)
ブラウザを閉じてお戻りください