贈る言葉
 忍人は一人、宮の通路で壁にもたれて立っていた。

 腕を組んで絶ち続けることもうどれくらいの時が経っただろう。

 というのも、忍人はこうしてある人物がやってくるのを待っていた。

 その人物というのは忍人の主であり、恋人であり、この国の王である人物、千尋だ。

 千尋はここのところ政務が忙しくて、挨拶を交わすくらいはできてもなかなか二人でゆっくり会う時間をとることができなかった。

 ゆっくり会えない日はもう7日ほど続いており、会話らしい会話を交わさない日ももう5日も続いている。

 今朝、たまたま千尋とすれ違って挨拶を交わしたが、その時の千尋の顔がとても悲しそうに微笑んでいて、それが忍人には気になった。

 千尋は芯の強い女性だ。

 だからちょっとやそっとのことで弱音を吐いたりはしないが、つらい思いをしているらしいことは忍人にはわかっていた。

 千尋が時間を作れないというのなら、自分が作ればいい。

 そう思って忍人は政務が終わって自室へ戻る千尋が通りかかるのをこうして廊下で待っているのだった。

 ところが、もう日が暮れたというのに千尋はなかなか戻ってこない。

 こんなに遅くまで政務に励まねばならないとは、これでは千尋が体を壊してしまうと忍人が心配を始めたその時、足音と共に千尋が姿を現した。

「忍人、さん?」

 驚いて足を止めた千尋は一人で、なんだか少し頬がこけている気がした。

 美しさに変わりはないものの、どこかはかなげだ。

「こんな遅くまで政務か?君は。」

「あ、はい。会議が長引いちゃって…って、忍人さんはこんなところでどうしたんですか?」

 明らかに壁に背をつけてたたずんでいるふうの忍人に千尋は小首を傾げる。

「君を待っていた。」

「はい?」

 千尋が驚いている間に忍人は千尋の方へ歩み寄り、その顔に自分の顔を近づけた。

「おおお、忍人さん?」

「顔色がよくない。睡眠時間がたりないんじゃないか?」

「あ、えっと…まぁ、たまに寝れないことはありますけど……その…忍人さんに会いたいなとか考えちゃうと…。」

 ほんのり頬を桜色に染めてそういう千尋を優しい微笑を浮かべて見つめた忍人は、千尋の小さな体を優しく抱き寄せた。

「忍人さん?」

「俺も会いたかった。」

 優しく小さな体を腕の中に閉じ込めて耳元で囁けば、今まで桜色だった千尋の顔は真っ赤になる。

「これで今宵はゆっくり眠れるか?」

「そ、それはもう…。」

 そう言ってキュッと忍人に抱きつく千尋を、忍人は優しく抱きとめた。





管理人のひとりごと

つまり、忍人さんだっていつも千尋ちゃんを想ってるってお話。
普段は公の立場があるからなかなか優しい言葉をかけられない忍人さん。
だからこそ、公ではない自分の時間を作って愛しい人をいたわろうとしたわけです。
忍人さんは公私の区別がしっかりしてそうなのでそういう努力のしかたかなと。
それにしても「俺も会いたかった」が精一杯か(’’)







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