
「アシュヴィンは何回言ったらわかるの?」
「……。」
「視察はしかたないけど、それ以外でどこか遠くへ出かけるなら必ず行き先を知らせてって言ってるのに!」
アシュヴィンは一応神妙に、新妻の小言を聞いている。
それというのも行き先を告げずに遠出をしてしまった自分が悪いというのがわかっているからで…
ところがこの新妻は黙って小言を聞いていると怒りが増すようで…
「もう許さないんだからっ!」
怒りで瞳を潤ませながらそう叫ぶ千尋に深い溜め息をついてからアシュヴィンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。」
「へ?」
「許さないというのならばしかたがない。」
「はい?」
アシュヴィンはすらりと剣を抜くとその切っ先を千尋へ向けた。
「いいぜ、久々にお相手願おうか、龍神の神子よ。」
「なっ…。」
一瞬驚きで硬直して、それから千尋は顔を真っ赤にして怒って天鹿児弓をアシュヴィンへ向けて構えた。
「ほぅ。」
久々に見る勇ましい妻の姿にアシュヴィンは口の端を上げて不敵な笑みを浮かべる。
そうして互いに武器を構えることしばし。
千尋の方へ一歩踏み込もうとしてアシュヴィンはあることに気付いて目を丸くした。
千尋の目から涙がこぼれたのだ。
「千尋?」
呼びかけても千尋は答えない。
だが、弓を持つ手は震えて、涙はどんどん溢れて…
アシュヴィンは苦笑しながら剣を鞘へおさめると、ゆっくり千尋の手から弓を取り上げてその小さな体を抱きしめた。
「悪かった。」
「……ひどいよ…。」
「だから、悪かったと言っている。度が過ぎた。」
「私はアシュヴィンのことが心配で……。」
「わかっている。だからもう泣くな。お前に泣かれると、俺はどうしていいのかわからん。」
「泣き止むまでこうしててくれればいいんだよ。」
自分の胸に顔をうずめてきゅっと抱きついてくる妻が愛しくて、アシュヴィンの顔に優しい笑みが浮かぶ。
「わかった。泣き止むまでいつまでもこうしている、だから許せ。」
千尋が腕の中でこくりと小さくうなずくのを感じて、アシュヴィンは千尋を抱く腕に力を込めた。
勇ましい妻も愛しいが、こうして儚げな妻もやはりいとおしい。
どんな千尋も愛しいのだと気づいて、アシュヴィンは千尋の髪の香りを吸い込んでうっとりと目を閉じた。
しばらくは泣き止んでくれなくてもいいかもしれない。
そんなことさえ思いながら。
管理人のひとりごと
アシュは管理人の中ではサザキとどっちがってくらいやんちゃなイメージです、実は。
だから、たまにこんなふうに悪戯をしかけちゃうんですが、千尋はけっこうナイーブ。
国のために敵だったアシュとは戦うけれど、こんなふうに悪戯されたら泣いちゃいますってお話。
でも、結局アシュは千尋の涙に弱くて、優しくしちゃうという。
要するに千尋の涙が最強ってお話になってますね(’’)(マテ
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