恫喝する笑顔
 風早はいつものようにその顔に微笑を浮かべて早足で歩いていた。

 向かうは中つ国の兵士達の訓練場だ。

「忍人。」

 目的地に到着して、目的の人物の姿を見つけて風早はニコニコと微笑んだまま声をかけた。

「風早?どうしたんだ?急用か?」

 さっきまで共に雑談をしていた兄弟子の出現に忍人が訝しげな顔をする。

「ちょっと一緒にきてもらえませんか?」

「ん?何があった?」

「実はさっき、千尋にお茶でも出そうかと思って千尋の部屋へ行ったんですが、千尋に向かって柊を悪く言う官人がいまして。」

「ふん、裏切り者がまるで王の恋人のように振る舞って目障りだとでも言い立てたのか?」

「ご明察。」

「で?なんで風早が俺を探すのだ?」

「ちょっと一緒にきてもらえないかなと。千尋が泣いていたので…俺一人だと何するかわからないでしょう?」

「ああ…その官人に喝を入れてやろうというのか?」

「まぁ、ちょっとしたお仕置きですね。」

 そう言って微笑む風早の目が全く笑っていないことに気づいて忍人は歩き出した。

 兵士達の訓練を見守るよりも、この兄弟子の暴走を止める方が重要らしい。

「有難うございます。」

 並んで歩きながらの風早の言葉に忍人は軽く溜め息をついた。

 年も上だし、岩長姫の弟子としても兄弟子に当たる風早を自分が見張らなくてはならないとは…

 心の中でそうつぶやいてみても実際に風早からは殺気さえ感じられるのだからしかたがない。

 風早が先に立って歩き、二人が目的の官人をみつけるのにそんなに時間はかからなかった。

 官人達が仕事をしている場所など限られているからだ。

 目的の人物を見つけると風早はその前につつと歩み出てにっこり微笑んで見せた。

「我らが王の軍師たる柊について悪い風評を流しているのは君かな?」

 急に声をかけられて官人が動きを止めた。

 不機嫌そうな顔で風早をじっと睨みつける。

 だが、その表情は数秒の後に激変した。

「柊は信頼厚き王の腹心であり、俺の友人でもある。」

「俺の兄弟子でもある。」

 一応忍人はそう付け加えてみたが、どうやらそんな必要はなかったようで…

 いつの間にか剣の柄に手を置いて微笑んでいる風早に、官人は完全に怯えていた。

 なんと言っても目が笑っていない風早の微笑ほど恐ろしいものはない。

「俺は王に誰よりも長く仕えています。知らないとは言わせない。君が柊を罵ったことで王はその優しきお心をとても痛められた。俺がどれくらい怒っているか…当然、わかるだろう?」

 顔は微笑んでいる、声も優しい、口調も乱暴ではない。

 だが、とにかく目が笑っていない、それに手が剣の柄にかかったままだ。

 官人は怯えて震えだし、風早がその官人ににじり寄る。

 これはまずいと忍人が風早を止めようとした刹那、柊と千尋が飛び込んできた。

 あっという間に風早は二人に取り押さえられて官人は緊張が切れたのか腰を抜かす。

 忍人は、この二人が止めに入ってくれるのなら自分も風早と同じく官人を責めておくのだったと心の中でひっそり思いながら深い溜め息をつくのだった。





管理人のひとりごと

「絆」をUPした時に、拍手コメントで頂いたのと、友人からも見てみたい言われたので(笑)目が笑っていない風早をちょっと書いてみました(笑)
いかがでしたでしょう?
管理人はかなり気に入ったので(笑)そのうち短編の方でもでてくるかもです(w
でも今回はどっちかというと忍人の話になったような気がしないこともありません…






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