
「もうおなかいっぱ〜い。」
千尋はそう言って満面の笑みで伸びをした。
テーブルの上にはまだたくさんの料理が並んでいるけれど、もうこれ以上一口も入らない。
大きなケーキも半分ほどがなくなっていた。
中つ国が平和を取り戻して、まだ小競り合いはあったりするけれど、それでもなんとかみんなが前を向いて歩けるようになった。
それもこれも新しい王の頑張りのおかげと、臣下一同は千尋の18歳の誕生日、5年を過ごした異世界で誕生日を祝ってきてもいいと丸一日の休みを千尋にプレゼントしてくれたのだ。
で、あの厳しい戦いを共に戦った仲間達もこっちの世界へやってきて、一緒に楽しく千尋の誕生日パーティが催された。
中つ国でも大々的に王の誕生を祝う宴が開かれたけれど、それはなんだか形式的で大仰で、千尋にしてみればただ疲れるだけの行事みたいになってしまった。
だから、こちらの世界に詳しい風早が大張り切りで準備をして、那岐がそれに巻き込まれて迷惑そうにそれでもいつもよりは積極的に風早を手伝ってパーティは実現した。
料理はとってもおいしかったし、中つ国じゃ食べられないケーキも食べて、千尋はもう大満足だ。
しかも、ケーキにナイフを入れる前にはみんなから誕生日のプレゼントまでもらった。
それは綺麗な花だったり、綺麗な貝でできた髪飾りだったり、翡翠の首飾りだったり色々だったけれど、どれもみんなの気持ちがこもっていて千尋は両手にいっぱいのプレゼントを抱えてウキウキだ。
「もう、こんなに楽しい誕生日パーティ初めて。」
「千尋も18ですか、もう大人ですねぇ。」
「大人は20歳からだよ、風早。」
エプロンをしたままで感慨深げな風早に千尋は思わず苦笑した。
この千尋に甘すぎる保護者はどうやら千尋が大人になることが寂しいらしい。
「18っていや気をつけなよね。」
「何を?」
「犯罪者になったら実名報道されるから。」
「那岐!」
相変わらずのむっつり顔でからかう那岐を睨みつけて千尋は溜め息をついた。
「もう、縁起でもないこと言わないでよ。」
「こちらの世界では18になると色々あるのですね。」
そう言って感心しているのは布都彦だ。
「ま、18っていや立派な大人だが、姫さんはもうじゅうぶん普通の大人じゃできないようなことをやりとげてるぜ!」
サザキがそう言ってウィンクすれば、黙って忍人がそれにうなずく。
そんなふうに認めてもらうのは千尋には少しくすぐったい。
「色々必死だっただけだけどね。みんながいたからこうして無事に18歳になれました、有難う。」
そう言って千尋がにっこり微笑めば、その場の誰もが嬉しそうな笑顔になる。
「さて、我々はもうそろそろ戻りましょう。もうすっかり外も暗くなりましたし、我が君もお疲れでしょう。これ以降は我が君に心を奪われし我ら忠実なる下僕に全てをお任せになって、こちらの世界での一夜をお楽しみ下さい。」
「へ、みんな帰っちゃうの?」
柊が華麗に一礼するのを見て千尋が目を丸くする。
今日はみんなで雑魚寝だーっと思っていた千尋だったのだ。
「この家にこの人数が寝られるわけないだろ。」
「でも、ほら、雑魚寝っていう手があるよっ!」
力説する千尋にあきれて溜め息をつく那岐。
「いや、それでもこの家の広さじゃちょっと…。」
と苦笑したのは風早だ。
「我が君、どうか、お心安らかにこちらでの一夜をお楽しみ下さい。我らが我が君不在の中つ国はしっかりとお預かり致しますので。」
「柊がそう言ってくれるなら安心だけど…。」
あっさり安心する千尋に対して、「そうか?」と言いたげな人間が数名…
「では、我々は先に失礼致します。」
柊はそう言って華麗に一礼して席を立った。
これを合図に他の面々も席を立つ。
「あ、みんな気をつけてね。明日の昼には私も帰るから。」
ぞろぞろと出て行く一同を見送って千尋が溜め息をつくと、今度は那岐が立ち上がった。
「え、那岐も帰るの?」
「違うよ、僕は自分の部屋で寝るだけ。」
「ちょっと、後片付けは?」
という千尋を無視して那岐はさっさと出て行ってしまった。
「もぅ。」
「いいですよ、片付けは俺がやりますから。」
「風早一人じゃ大変だよ、私も手伝う。」
「すみません、千尋の誕生日なのに。」
「いいのいいの、おいしいものたくさん食べさせてもらったもん。」
こうして二人で食卓の食器を手早く片付けだすと、ぶつぶつと文句を言うだろう那岐は確かにいない方が良かったのかもしれないと思うほど二人とも手際がいい。
二人でシンクの前に並んで食器を洗うのもとても久しぶり。
洗い終わった食器を二人で片付けながら、千尋はクスッと笑みをもらした。
「千尋?」
「なんかこうしてると王様と従者っていう感じじゃないね。」
「そうですね。」
「なんか懐かしいなぁ。」
「……千尋、つらくはないですか?」
「何が?」
「王として国を治めるのがです。」
そうい言った風早の声があまりに真剣で、千尋は最後の大皿を食器棚へ片付けてからじっと隣に立つ風早の顔を見上げた。
そこにはいつもの笑顔はなくて…
「もし、どうしても王としての立場がつらいなら…。」
「つらいなら?」
「俺は千尋を連れてどこへでも逃げますよ。」
キョトン。
真剣な風早の申し出とはわかっているけれど、千尋は一瞬目を丸くして、それから声をあげて笑い出した。
「千尋?」
「ごめんね、せっかく風早が真剣に心配してくれてるのに。でも大丈夫、安心して。みんなが手伝ってくれるから全然つらくなんかないから。それに、逃げ出してみんなに会えなくなる方がずっとつらいよ。」
「そうですか、ならいいんです。千尋はこっちの世界での生活を知っているから、帰って来たいと思ってないかとちょっと考えただけですから、気にしないで。」
「有難う。」
「あ、そうだ、千尋、向こうでちょっと待っててもらえますか?」
「へ、あ、うん。」
慌ててキッチンから飛び出す風早を見送って、千尋はリビングへ戻った。
いったい何をそんなに慌てているんだろう?
みんながいなくなったリビングはとても静かで、千尋はベランダから外を眺めてみた。
外はもうすっかり夜。
月まで昇っていてとても静かだ。
こんなふうに静かな夜をこんなふうに穏やかに過ごせる日が来るなんて、あの戦いの最中は思ってもみなかった。
そんなことに思いを馳せている間にどたばたと足音をさせて風早が戻ってきた。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「急がないと日付が変わってしまうところでした。」
「何?」
「はい、お誕生日、おめでとうございます。」
いつものニコニコ顔で風早が千尋へと何かを差し出した。
それは小さな箱で、千尋は小首を傾げる。
「えっと…。」
「お誕生日のプレゼントですよ。どうぞ。」
「ええっ、風早からのプレゼントって今日のパーティの料理なんだと思ってた!」
「まさか、そんな不精しませんよ。」
苦笑する風早から小さな箱を受け取って千尋は嬉しそうに目をキラキラと輝かせる。
「開けてみていい?」
「どうぞ。」
ゆっくりかかっている可愛らしいリボンを解いて、包装紙を丁寧にはがし、小さな箱の蓋を開ける。
するとそこにあったのは…
「うわぁ、キレイ!」
小さな箱から出てきたのはきれいな碧い石の指輪だった。
「気に入りましたか?」
「うん、とっても!でも、これってサファイアじゃない?」
「です。千尋の瞳と同じ色で似合うだろうと思ったので。」
石はそんなに大きくはないけれど、キレイに輝いていて千尋は驚いて身動きできなくなってしまった。
中つ国の王としては宝石くらい身に着けて当然なのかもしれないけれど、それはそれ、中つ国での話で、こんなにキレイにカットされた宝石のついた指輪なんて初めてだ。
硬直している千尋に代わって箱から指輪を取り出した風早はそれをそっと千尋の指にはめた。
「あ、有難う、なんかちょっと恥ずかしい…。」
「ああ、サイズピッタリですね、よかった。」
「すっごく嬉しいけど、いいのかな、こんな、本物の宝石なんて…。」
「千尋も18ですし、それくらいのものは持っていてもいいかなと。まぁ、中つ国ではもっと色々持ってるでしょうけどね。」
「ううん!これ凄く嬉しい!有難う!」
千尋はそう言って指輪をはめた手を大事そうに抱きしめた。
「喜んでもらえてよかったです。俺はこういうものを選ぶのが初めてだったんで、かなり迷いました。」
「風早センスいいよ、大丈夫、すごくステキ。」
そう言って千尋がニコニコと喜んでいる間に、部屋の時計が鳴った。
もう時間は午前0時、すっかり真夜中だ。
「ああ、日付が変わっちゃいましたね、もう寝ましょうか。」
「ん〜、せっかくこっちに戻ってきたんだし、明日にはもうあっちに帰らないといけないし…久々に夜更かししちゃおうかな。」
「千尋…。」
「ね、いいでしょう?一緒に映画とか観ようよ。」
「しかたないですね。」
こうして千尋と風早は二人で並んで座ってテレビをつけた。
こんなふうに過ごせるのは一晩だけだから。
そう言って張り切った千尋は30分後、風早にすっかりもたれかかってすーすーと寝息をたてていた。
そして風早は、そんな千尋の肩を優しく抱いて、愛らしい寝顔をいつまでも見守っていた。
射し込んだ朝陽で千尋がゆっくりを目を開けるまで。
管理人のひとりごと
気づいたら自分の誕生日だった管理人が突発的に思いついた千尋ちゃんお誕生日短編です(爆)
遙か4初の企画ものかな。
まぁ、管理人が自分で自分を祝う感じで書いてるんで、風千に落ち着きました(’’)
1時間で書いて校正までやったんで、誤字脱字はご容赦を(っдT)
個人的に書きたかったのはエプロン姿の風早でした(爆)
それが書けたので満足です(’’)
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